月々の句

十一・十二月

重たげに首はいのらをまかせられ首をがつくり夜景はまつしぐらに酒が入つた首黙つて号令をする首を据え嘘の善意に動かせないシルクハット首に任務を強いてやる革命に火を噴かれ首だけ歩く花嫁さんの首重たしまかせた時間どこかで万歳首は堅きカラーにはまる…

九・十月

老い支度なかに昔を置いてある自分より若い年寄り何度もし置手紙狭い世間を広くするひと通り風が止んだと鴉バッサー老い坂に並んで待つか真っ赤なれ重からぬ身の一生を近付かせ冷えて来て来た小さな微笑みや老人の夢はさもしくあちら向く冷えて来た小さな微…

七月

放心の彼方ゆっくり灯のゆらぐ含蓄のまこと行末たなびくか美しく試案の扉かっとばせ強弱の涙自ら光らせるもろもろの下手か上手かまだ回る腫れものの強き怒りか黄の濃さか伏線の彼方巨悪のひと寝入りどっちみち下手か上手か顔まとも話せないつんと澄ませてか…

六月

老いを病むやさしい声が来てくれる卆で何かと自分に問いかけて俺のしたことかとまたも苦しいこっそりと年寄り夫婦の顔になる病い得て時の谺がまだ続く昔尽寝いまの憩いを何とする老化への道のまぶしさとも言える耳鼻科に内科にひとりとぼとぼの道雄弁の年寄…

五月

頭痛しきり垣のあたりが苦になってほんとうは驚かないで水を呑む向こうでも眠る話を持っていて昵懇の間柄とはまた言うか先生と無頼の話どっちが消える尾行するその語らいかとまだ覚めずたちまちに齢をかばって腹這うか本当の辟言え私は並んでく何処にどうあ…

四月

出藍の誉れ蟻ども群がるか忙然に立たんとはする水たまり誰か教わったでもない道を拾い長老の溜息ひとくちでは言わぬ界隈を泣かせて見せるほんの芸億円のにらみ返しがさびしけれ代々の呪縛は何故か労らず冒険の由緒深さかユーモラス鼈甲がぶら下がるとき皮肉…

三月

ばらばらの道に別れのひとつあるどこにでもある話してまるくなり老人の思い出ながら瑞々し根っからの頑固ひとつを持ちながら誰のためとてもないうつけもの一生の衒い静かな街を得て気位の高さそこでは黙ってる月の掌が静かにのびる軽はずみしんみりと残り少…

二月

この世との別れの送りみんなにもいくつかの奈辺よろしく穴がある机上から達意の順を返せたか妄念を刺す闘いが始まった誰が聞くというのだ何を言っとる下手なら下手でよい月の喜び真っ直の鼻と思えどさりながら縮まった想いをそこに置いてあるいみじくも齢は…

一月

かがなべてひとつの道があったとさ弔いの掌にまといつく同い年難しい話でほんの芸のうち大勢の道を私というものがそこここの鳴らざる鐘を拾い合い貰ってる言葉ひとつの底つこぬけかくしごと自分らしさを縛りつけぼろぼろになりたいだけで眠くなるコンマ以下…

十二月

ぬっと出る旭の機嫌まだ欲しい 重い荷と軽い荷とゆく押し黙り 露の世と更に昔のひとのぞく 身の程を頭痛重ねて連れ立つか 待っててねそう言いながら手を振って いくつかの総てにおくれとるまいぞ 天然の美と人の美と連れ立って 熟睡のそこまで知った夢がある…

十一月

ひたばしり老いの便りをいま出そう この世との縁の深さの九帳面 九十われ目立たぬ顔のここに在り おんぶしたい顔はせず杖が一本 生きてゆく道によろよろ笑わない 健康雑誌未練か渋い顔をする おだやかな日はちよこなんと座る こだわらぬはからいじっと頭が下…

十月

磊落な言葉が生まれ置いてこう 真実の裏を見せ合いとぼとぼと 親戚の集まり齢は見え隠れ 落ち着かぬ言語がひとつずつ騒ぐ 足萎えて変わり盛りの今もなお 粛々と無駄な道とは思わざる 死はそこで待たんというか風も同じ 目の前に疲れた茶碗だけ並べ 驚がす通…

九月

如才なくのどを鳴らして好々爺 ゆゆしくも用意たちまち死を想う 昔噺老いは来ないとさし向い ひとりごと夜中のわれを拾い出す 道しるべ年寄りの知恵磨くべく あしからず自分を拾い出す時間 百名山さらに深くて眠り欲し 薬忘れず咲き出す花と噴く山と どうぞ…

八月

老夫婦さびしがらせるものじゃない どこで曲がったのかこの辺のふくよかさ ずんずん走ってゆくそばで待ってよ ほんとうの別れが近い一日が大事 孫と墓詣りゆずらぬ歩幅 九十の何故かやる日が連れてゆく 歳はこんなに多くてまた黙らせる 一日が大事頭痛もなん…

七月

老夫婦悲しい顔はまだしない 共にステッキ旅行だけは忘れてる 背は低くそれで目方は負けてない 思い出の鞭になしとはいうまいぞ 未亡人になろうと勝ち気思案せず 口下手なわれ下手を凌いでまた或る日 よく生きた生かせてくれた感謝する 短かい道のりか死ぬと…

六月

チクンと刺す何か人生小なるや 屁が自ずとやがて人生あざわらう 親切の情の姿が今日を現し お互いの別々の道広がって 散らばった机気性のあらわなれ 句手帳がきちんと並びオオと答え 老いのステッキ遥々長女から貰う 枕頭にメモあり迷吟の広がり 二枚舌持つ…

五月

すみずみに老いがきちんと揃ったよ 振出しに戻る小さな恩返し ひとりごと夜中のわれを拾い出す やせこけたおのれことごとくひらめき あしからずおのれひとりをふくらます 夜の闇教えてくれるそのはなし あやふやな紐の落ち度が火花する 力貸すほんとの面が浮…

四月

堪らなく心の襞を擽って ぼろぼろの神が出て見え仕舞いゆく それとなく馬に馴れ道草食べて 誰だろう心の旅を撫ぜてくれ 晩年の鐘のひたすら驕らない おどろおどろ濡れた言葉で耐え難く 夢見てたその一枚を大事がる 儲からぬ話で一緒に目が覚める 大きい話と…

三月

晩酌に柿と蜜柑で嬉しくなる 元遊郭女局長産毛少し 勇ましく不況の二字のたなびくか ぎつしりと詰まる寝言のひと腐れ やつたことなくパチンコの欠伸する きらめくものの尚おびえる髭 いい返事とりやすく夕焼け色濃し 缶詰の甘露テントまだちらほら 冬の山夏…

二月

あやうさと泥まみれで消えぬ炎 学ぶ身のさくらの埃さて難儀 あたたまるものなり齢をきざみつつ 貢献のうえに勝ど関まで告げず 人脈の通りすがった貌をぶつ いじらしき時の教えのまた一つ 虚々実々真の願いを被りながら 成年率かなった夢よ覚めぬまま 特報ネ…

一月

表情のうえの鬘がものを言う 往来の少し手前の知恵くらべ ぶつかり合いしごく目出度い音を出す 耐用に克ちたがる目がものを言う 胃のもたれ尽きせぬ話くり返し 緩和またどこかで眠り薬買う 結論に駆けつけたがる小さい虫 気疲れの果ては櫓のふとそびえ ぎこ…

十二月

妻と灸熱さ辛さを争わず 飼い犬はいないよその声手厚くて 陽は真冬あらたまる齢黄色っぽく 似顔絵で先をこなされ負けず嫌い 老醜の温い大穴欲しいばかり こんがりと焦げた餅たち行儀よく ぼんやりとこの年の瀬やわが齢と 衰えの向こうでしっかりした声が 仕…

十一月

軽薄な裏へ誌すか今日の咎 見届けしおのが潮時克たんとし おごそかに首尾をたくわえ露払い どんな顔して疎い世に生まれ合い 鷹揚に世過ぎのまことなら拾う 老来の夢は惜しみをして戻る 黒豆の神秘とにかく点灯す かくんと悲しみを添えるいのちきらり 過去が…

十月

あまつさえ頭目の言葉洗われ おんぼろになり澄ますそんな日と近い 稲妻の何を聞かせる正直ものめ おもかげのやさしき過ぎし日と繋ぐ からくり人形静かな道はまだ続く 旧跡のタブーどこを捺して見るか 鉛筆の長さ余命を励まして 神様も低い腰娑婆のあれこれ …

九月

若死にを偲ぶおのれの齢に恥じ たましいを吊るいさぎよさ時は縫う 妻も八十四それぞれの手を揃え 父よりも母よりも米寿身をこなし ささやかな宴連衆の顔たしかめ 寝小便をしたことなしそれもやせ我慢 安時計われを好んで咳をする ボロボロになつたとしてもひ…

八月

八十八互いながらの友の身は 傷ついた者が手を挙げるそれも世の中 つれない話を寝床で泣いたそれも歴史 そこまで生かしむる刹那の雄叫び 妻も八十四漕ぎ出す山と海と 百メートルを殿で走つた思い出 運動会をよそに手ベースの輩はしやぐ 神前のうやうやしき米…

七月

熟成のかばかり夢のその中に 逞しく影ゆらせつつ不毛 曲筆の揮うあまりにも平和 飛んでゆく風がわらべ唄にこだわり 歯型さて悲話を除こうとはしない くずし文字いつか別れの歌覚え 齢の数次貯まるばかりで嬉しかろ 老いぼけの蛇足ゆるやか小世界 そこだけの…

六月

甘栗よ祭囃子を低くする 叱つてる帽子別れが惜しいのだ 男の夢が近くなるほど老いゆくに 口紅の若い咎老いの悔い少し 了見をやさしくさせて雨本降り 遠くに流れる雲があり捨て台詞 言葉らしい白を切る遠く過去 幻の気付かぬ方へ避けた川 父在り母在りその頃…

五月

腰がほんとに痛くなる老いの諸肌 砂文字がいくつ願いの岸に着くか 年中昼寝誰何の声のとがめなく 鉛筆とナイフこだわり篤くする 筥が黙つて笑つた闇を従え リボン誇らしげに強弱を語り まといつく正義の肌の汗ばむか 月が遮るひとつの甘い言葉 黙つて帰りあ…

四月

償いのいくつ数えてただに寝る 着る脱ぐの心覚えのひたすらに 死に遅れさてごもつとも無精髭 共有の愛の庁つぽたかが知れ ふるさとをめぐる愛憎のゆくえ 愛憎をもたせ故郷への溜め息 恬としてふるさと遠くうしろ向き 言葉遣いに一篇の情を尽くし 木訥に神馬…