1965-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽信州の山国だからさぞどつさり雪が降るだろうと想像するのも無理はない。山また山の奥深いところで吹雪がしきりに荒れ狂うさまを思い浮べる人もあるのだろう。誰だつてそう考える。 ▽信州の南の方は割と暖い。だんだん北に向つてゆくに従つて寒くなるという…

十二月

雪は静かにこの宵を満しめよ 降る雪の想いを正すことありき 酔いのなかに閉じこめ齢を守りたく けものめく指のゆくえのはじらいや 子の意見はしたなくまた明るかり 政治わびしくてひとひとり去るばかり 愚かしやものの怪に向く膝撫ぜて さよならを言える別れ…

二七四号(昭和四十年12月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 柳多留初篇輪講(三七) マスコミの眺めた川柳 東野大八 課題「論争」 田内創造選 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 句会報

十一月

▽おのがねぐらに蟄居しながら惰眠を余儀なくされるわが愛犬は昼も夜もそうした悲しいからだを捉え、不自由なぬくもりに短い夢を見るのである。のどけき空、むし暑い陽盛り、落葉の音のかそけささむ〲と満天の星、その四季のなかに鎖を断ち切るすべもなく、限…

十一月

いじらしく土偶の乳房語るらく 髭伸びて政治の憎さ眠くなる 剃刀の刃のいらだちを磨き上げ ひとり飲む酒のおろかさゆだねたり 柿熟す拙なきまでに分別よ 齢を得し日の薬たり小粒てのひら 金策の夕陽を遠く描きたがり かなしみの涙ではない老いを拭く 石据わ…

二七三号(昭和四十年11月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 川柳は川柳で立派 渡辺幻魚 水木真弓先生の思い出 鈴木重雅 課題「人間」 岩井汗青選 課題「飯」 寺沢正光選 同人雑筆 茶釜・琴・小狐 石曽根民郎 鶴ムードの柳界に一言 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 西島○…

十月

▽文明開化・異国情趣の充ち溢れた特異な版画に心をひかれたのは川上澄生という人の作品にふれてからである。南蛮風俗に題材を求めて、その時代を髣髴させる画風は、版画がもたらせてくれる魅力であつた。そして私はその人の名を覚えた。 ▽イメージは回顧であ…

十月

あわれ男の夢結ぶよごれしか 齢の静かな欲望も一しよに眠り こころを読ませ木枯が奏でてゆく たたかいは了らないでいい足踏みして 気弱さにいて生きる身の酔いまわる 子はひとり飲みこちも飲み近付きたし まさぐれる惑いの闇のなまぬるく 傷をねぶりいちにち…

二七二号(昭和四十年10月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 現代川柳雑感 松林尚志 柳誌月評 橘祐 柳誌年表(38・12)(7) 「武玉川」の句について 阿達義雄 聊斎と川柳 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 噫妻よ 土田貞夫 西島○丸川柳年表(三) 奥津啓一朗 柳多留…

九月

▽太閤秀吉は大阪城を築いた時分に、虎を飼つていた。激を飛ばしその餌として、近傍から犬を集めさせた。犬の飼主は大いに恐縮した。(加藤清正虎退治)のキヤツチフレーズもあつて、文禄の役あたり、朝鮮から虎を輸入して来たものらしい。 ▽虎は犬が大好物で…

九月

不况知つてて無蓋貨車そぼ濡れる 秋を聞かす虫よ不况を語る貌よ 倒れてくひとりを踏まえ不况倦かず 水のどを通る不况も冷たくて あがく手にからむ不况の脂汗 ビルの鋲音に不况が遊んでた 指練れて不况の活字拾いゆく 不况逃げゆく夢が覚め顔洗う 金借りるお…

二七一号(昭和四十年9月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 〔川柳時評〕 柳界両巨頭の死がもたらすもの 石原青龍刀 柳誌月評 橘祐 柳誌年表(38・11(2))(6) そばの赤すね 向山雅重 安永期の家庭吟 阿達義雄 同人雑筆・句会くさぐさ 下畑辰二郎 雑詠 大空 石曽根民郎選 西島…

八月

▽わが愛犬は年寄りじみた顔もせず、いとし子を五つ産み落した。まるまると太り、可愛げに啼いてこの世に享けた生の喜びを知りながら、産れた五つの首はみなこちらを向くのである。どこかに貰われてゆける倖せがすぐそこにあるようで、毎日乳を呑み、腹ふくれ…

八月

勲章をぶら下げ早く腰掛けたし 一椀の飯に祈りをかぶせおく 運命に逃げぬ群像長じたり 秋果それ〲に熟む女心が待たれ 政治の貧しさに揉むトツプ記事 欲心に目覚めて秋の色を溶かし 求め合うよごれ拭くかに患う老い 物の怪に敢えて抱かれて痛きとが いち早き…

二七〇号(昭和四十年8月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 柳誌月評 柳誌年表(38・10〜11(1))(5) 橘祐 俳句川柳垣覗き 村山重児 木曽節について 小谷方明 課題「欠伸」 森山静園選 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人 星華集(自選) 三沢惣治 柳多留初篇輪講(三三) …

七月

▽ふたつ犬を貰つて父の家に自動車で運び、二三日ほど置いて、一匹だけ連れて来た。それからまもなく或る日、その犬が突然いなくなつた。ぬすまれたものとあきらめていたら父の家から持つて来てくれた。「朝起きたらうちにいたよ」というのである。子犬がどう…

七月

七月七日、麻生路郎師逝く 独身の句妻の句孫の句見そなわせ 叱られに来た大阪の日もむなし 大阪の師東京の友われここに 仕事第一そして句に胸像おちつく 師の訃きびしく七月の空冷えるなり 大阪のひとり喪いしずまりゆく いたずらな月日とはせじ詠わんか い…

二六九号(昭和四十年7月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 日本短詩を志向して 福島春汀 【再び現代川柳と俳句の交点に触れる】 課題「野原」 豊島好英選 西島○丸川柳年表(一)奥津啓一朗 天皇、皇后両陛下に お供して八幡大池へ 横内斎 課題「路」 山岸きよし選 「眼鏡」 竹内伊佐緒…

六月

▽御座敷に面して横に長い小さな庭がある。ここに一本のひよろひよろした楓が樹つ。みんな掌をひろげているべき筈なのに、ややちぢかんでこの夏をこごえている見たいな指をしている。 ▽伜がどこで聞いたか、物知り顔に「父さんがあんまり水を撒くので、根元が…

六月

長女、男子を儲く(六月十九日) 里は信濃ぞ産みに来る手を揃え 鳥啄む幸が子をもたらす描いてた 吉報の朝はゆるぎなく明ける 初孫と対面やすけき日を貰い 言うほどのことならで静かな胸に おじいちやんと言われて真顔を撫ぜ ありふれた喜びのぞかれた想い …

二六八号(昭和四十年6月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 收月研究(一) 大野温于 池田放言と人民派短詩 石原青龍刀 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 丸山山彦 柳多留初篇輪講(三一) 【さつま芋の初出句発見】 句会報

五月

▽門口に備付けた牛乳箱に配達される牛乳がコトリと音を立てる、そのとき朝が明けるのだといつた句があつたと思う。うちでも牛乳屋さんから貰つたが、あまりに麗々しくなるのがうとましく、用を足さないでそこらへんにころがつている。二本すつぽり入るのだが…

五月

夢乾けど縋らんとする目をつぶるか 鎖ガチヤつかせ見事に誤算読む 名を惜しむ横顔濡れる雨のみかは 釣りの気長さよたんぽぽ黄に染まり 老眼鏡持たぬ気負いもさりながら 無慾ではないほんとの底にふれさす 子が集つて齢はきちんと胸に置く いくさのむごさ映像…

二六七号(昭和四十年5月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 現代川柳管見 藤岡筑邨 課題「放つ」土田貞夫選 柳誌月評 橘祐 柳誌年評 38・9 (4) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 一ノ瀬春雄 組連句集と其の句(下) 阿達義雄 柳多留初篇輪講(三〇) 課題「…

四月

▽春になるとぼつぼつ夜店が賑わい出す。とざされていた信州の冬の眠りを覚ますにはいろとりどりの季節の花は美しく適つている。緑や赤や黄のカラーは道行くひとの目にあざやかだ。少し水をくれてあるから、露がしたたつて、そして光つている。 ▽こんなに電灯…

四月

わが枕ひと日おかしきことを想え 煙突のけむのやわらかさに黙り ときにたゝかいの顔となる苦しさよ 少し老いに耐えあけくれを牽いていし みにくさの隅で入日にこだわつた 春冷えのあらそう声におししずめ 人の夢大事に聞ける齢貰う よごれた貌と知つていてこ…

二六六号(昭和四十年4月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 石曽根民郎作品覚え書 鳥羽とほる 【―最近の作品にふれて―】 課題「都会」 藤沢三春選 「冷たい」 猪股雀童選 柳誌月評 橘祐 柳誌年評 38・7〜8 (3) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集 豊島好英 句評「道」…

三月

▽わが先輩は農閑期を利用して江戸へ出稼ぎに赴いた。一団となつてガヤガヤ無駄口をたたきながら賑やかだつた。雪深い郷国をあとにして、異郷のいく月かが先輩らの日頃の望みであつた。それほど季節的にきびしく、また貧しかつたのであろう。 ▽薪割、飯焚、下…

三月

短き闘いへ梟も目覚めて来て 雪が思い出したように男らを見くびる 愛の傷あとわさび顔を利かし 人はさだめを持ち道のあかるさ 樹々の語らいよ未来はこつちにもある ふれたがる噂遠くに雪を降らし 許すことの大いさがいま酔わしめて 長い旅こころのよごれある…

二六五号(昭和四十年3月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 軍談業名面帳【−舌耕文芸史資料断片 六−】 中村幸彦 組連句集と其の句(上) 阿達義雄 古川柳関係記事掲載目録(七) 同人雑筆 向う山見れば 小松耕吉 雑詠 大空 石曽根民郎選 星華集 田内創造 山彦集 同人 句評「道」 汗青・…