九月

   不况知つてて無蓋貨車そぼ濡れる


   秋を聞かす虫よ不况を語る貌よ


   倒れてくひとりを踏まえ不况倦かず


   水のどを通る不况も冷たくて


   あがく手にからむ不况の脂汗


   ビルの鋲音に不况が遊んでた


   指練れて不况の活字拾いゆく


   不况逃げゆく夢が覚め顔洗う


   金借りるお辞儀不况がおんぶして


      同人土田貞夫君令夫人を喪う(九月二十一日)

   秋草のいろ沁みて来る人の名よ