2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

行商

衣笠かぶりだったり、手拭は姐さんかぶりだったり、ちょっと赤いたすきも初々しく、さも働き者らしいいでたちで家一軒一軒を拾うように行商してゆく。こうした健気な女たちは季節を知っているかのように、わかめ売り、毒消し売りとして私たちの生活のなかに…

夜店

友達を誘い合ってよく田川へ水浴びにいきました。帰りには芋を掘って、焼いて食べたものです。その芋はどこの家の畑のものか、そこまでは考えないで、当然の行為として無邪気に口をもぐもぐ動かしていました。 当時、竹筒でこしらえた水鉄砲はだれもが持って…

野球

松本中学五年生の夏(昭和二年)、長野県野球大会が上田で開かれました。中学最後の思い出にしようと、応援の呼びかけもあって、徒歩で岡田を経て、錦部を通り、保福寺峠を越えて、勇んで上田まで行きました。総勢二十人ぐらいだったでしょうか。 上田市内の…

昼寝

敗戦の日、「いま玉音放送を聞いて来たよ」父は緊張した面持ちで、自転車から降りてみんなに告げました。私たち家族はハッとしながら、とうとう戦争は終わった、としみじみ顔を見合わせたのです。 その一カ月前、七月十五日を限り強制疎開にあい、長く住んで…

西瓜灯籠

西瓜(すいか)が出廻る頃になると、筑摩神社の灯籠祭りの賑やかさが思い出されます。八月十日の宵祭りには、西瓜をかたちどった灯籠が、ローソクに映えて一段と祭り気分を濃くしたものです。 会社をはじめ商店の人たちが予定をたてて、今年こそはみんなをア…

雷嫌い

近所に子供好きなおじさんがいました。うるさがりもせず、いたいけな私たちの相手になってくれました。ニコニコしながら昔話や土地の習慣などを話してくれ、決して物識り顔はしないで、親しげに子供の心をしかととらえました。そこの家の前を通るとき、中を…

馬の話

父は自ら志願して陸軍の騎兵になり、日清・日露の戦役に従軍したわりに昇進しませんでした。というのも気性が激しく、上官に反抗心が強くて、とかくの不評を買ったと、よく述懐したものです。 のち商人として独立したのですが、かつての闘志そのままに、ずい…

七夕さま

ご無沙汰の言いわけに「七夕さまのようですね。だって一年に一回しか会う機会がないですもの」とすまながったり、テレたりすることがあります。 天の川をはさんで、牽牛星と織姫星が年にたった一度デートするという。信州では八月のお盆に入る前の七日に行わ…