1998-01-01から1年間の記事一覧

十二月

冬になると思い出すのは騎兵隊を志して馬に乗った父の事。閑院宮連隊長に二十歳なのに二十一歳志願で、長い間兵隊になった父は、痔でも一番痛い痔瘻に苦しんだが、私が脱肛で医者に診て貰っていたら、そんなに苦しんでいては痔瘻の俺を見習えよとよく叱った…

十二月

妻と灸熱さ辛さを争わず 飼い犬はいないよその声手厚くて 陽は真冬あらたまる齢黄色っぽく 似顔絵で先をこなされ負けず嫌い 老醜の温い大穴欲しいばかり こんがりと焦げた餅たち行儀よく ぼんやりとこの年の瀬やわが齢と 衰えの向こうでしっかりした声が 仕…

六六九号(平成十年12月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 冨士野鞍馬 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 川柳評明和八年万句合輪講(九十二) 大空雑感 吉野圭介 津軽前句附点者−落合九三子−(六) 誹風柳多留十三篇略解(十三) 課題「愛情」 牛越鶴甲 選 「アイ…

十一月

ちょっと頭が痛い気がして、今日は一日臥すことになるかと思っていたのに、何時となく良くなって来たので安心した面持ち。すぐ齢だなと慮ったり、無理ならぬ体調だと先を読む。 少し郊外な静かな所に寝起きするようになってそろそろ四年目だなと気づく。無論…

十一月

軽薄な裏へ誌すか今日の咎 見届けしおのが潮時克たんとし おごそかに首尾をたくわえ露払い どんな顔して疎い世に生まれ合い 鷹揚に世過ぎのまことなら拾う 老来の夢は惜しみをして戻る 黒豆の神秘とにかく点灯す かくんと悲しみを添えるいのちきらり 過去が…

六六八号(平成十年11月号)

題字 斎藤昌三 表紙 中島紫痴郎 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 川柳評明和八年万句合輪講(九十一) 大空雑感 吉野圭介 私の川柳半世記 所典夫 津軽前句附点者−落合九三子−(五) 誹風柳多留十三篇略解(十二) 課題「続く」 所典夫 選 「…

十月

別宅の道に面して、隣の入り口に柿がたわわに色づいた。いい眺めである。メゾンだから大勢住んでいてあまり顔なじみになるような間柄でもない。動作はわかるが、顔は頓と覚えず、時間が銘々だからで気にもとめないでいる。並ぶいくつかの自動車は出勤用のせ…

十月

あまつさえ頭目の言葉洗われ おんぼろになり澄ますそんな日と近い 稲妻の何を聞かせる正直ものめ おもかげのやさしき過ぎし日と繋ぐ からくり人形静かな道はまだ続く 旧跡のタブーどこを捺して見るか 鉛筆の長さ余命を励まして 神様も低い腰娑婆のあれこれ …

六六七号(平成十年10月号)

題字 斎藤昌三 表紙 軸 食満南北 民郎蔵 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 信濃の狂歌(一三〇) 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(九十) 誹風柳多留十三篇略解(十一) 課題「世間」 一ノ瀬春雄 選 「緩やか」 飯沼忠 選

九月

タクシーやハイヤーくらいのとたまにトラツクが警笛を鳴らして通るが、自分が運転するために購入した車が多く、朝夕のきまつた時間には往来が繁しい。 密集した人家の賑わいはないがそれでもきちんきちん家が並んでいる。犬を飼つておる家は沢山ないけれど、…

九月

若死にを偲ぶおのれの齢に恥じ たましいを吊るいさぎよさ時は縫う 妻も八十四それぞれの手を揃え 父よりも母よりも米寿身をこなし ささやかな宴連衆の顔たしかめ 寝小便をしたことなしそれもやせ我慢 安時計われを好んで咳をする ボロボロになつたとしてもひ…

六六六号(平成十年9月号)

題字 斎藤昌三 表紙 軸 井上剣花坊 民郎蔵 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 川柳評明和八年万句合輪講(八十九) 大空雑感 吉野圭介 信濃の狂歌(一二九) 浅岡修一 誹風柳多留十三篇略解(十) 課題「ときめき」 下畑辰二郎 選 「本文」 芝波田和…

八月

決してハイカラではないが、昔ロイド眼鏡の異称ではやつたのを愛用して久しくなる。下に小さく老眼用、上に広く近眼用として最初は使つたが、だんだん視力が弱くなり、どつちつかずに掛けたまま上げ下げした格好で見る。 こうなると素通しの伊達眼鏡のような…

八月

八十八互いながらの友の身は 傷ついた者が手を挙げるそれも世の中 つれない話を寝床で泣いたそれも歴史 そこまで生かしむる刹那の雄叫び 妻も八十四漕ぎ出す山と海と 百メートルを殿で走つた思い出 運動会をよそに手ベースの輩はしやぐ 神前のうやうやしき米…

六六五号(平成十年8月号)

題字 斎藤昌三 表紙 色紙 阪井久良伎 民郎蔵 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 川柳評明和八年万句合輪講(八十八) 大空雑感 吉野圭介 信濃の狂歌(一二八) 浅岡修一 誹風柳多留十三篇略解(九) 課題「尽くす」 猪爪公二 選 「腰」 臼井重子 選 …

七月

殊更、犬を連れて散歩するわけでないけれど、身体を動かすことは健康によいと聞いたから、朝何となく近くを歩く。神社があるから祈るでもなく、丁寧に参拝をして少し落ち着く。近くに食堂があり、準備の物を煮る匂いが鼻に戯れる。いい接触で快い。 細い小路…

七月

熟成のかばかり夢のその中に 逞しく影ゆらせつつ不毛 曲筆の揮うあまりにも平和 飛んでゆく風がわらべ唄にこだわり 歯型さて悲話を除こうとはしない くずし文字いつか別れの歌覚え 齢の数次貯まるばかりで嬉しかろ 老いぼけの蛇足ゆるやか小世界 そこだけの…

六六四号(平成十年7月号)

題字 斎藤昌三 表紙 茶掛 椙本紋太 民郎蔵 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 津軽の前句附点者−落合九三子−(四) 諏訪柳々 大空雑感 吉野圭介 川柳評明和八年万句合輪講(八十七) 誹風柳多留十三篇略解(八) 信濃の狂歌(一二七) 浅岡修一 課題…

六月

眼鏡を掛けてから数十年余、大事に重宝して来た。楕円型の上部が近眼、下部が老眼のレンズで、ほんとうに長い間使つて来た。 どうもこの頃、度数に違和感があるような気がし、いらいらする不機嫌を生じて来た。 レンズの度数は眼科医に限ると決めて応診して…

六月

甘栗よ祭囃子を低くする 叱つてる帽子別れが惜しいのだ 男の夢が近くなるほど老いゆくに 口紅の若い咎老いの悔い少し 了見をやさしくさせて雨本降り 遠くに流れる雲があり捨て台詞 言葉らしい白を切る遠く過去 幻の気付かぬ方へ避けた川 父在り母在りその頃…

六六三号(平成十年6月号)

題字 斎藤昌三 表紙 色紙 村田周魚 民郎蔵 「百人一首」もじりの落首 石川一郎 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 川柳評明和八年万句合輪講(八十六) 誹風柳多留十三篇略解(七) 津軽の前句附点者−落合九三子−(三) 諏訪柳々 …

五月

わが松本市は岳都の異名があつてぐるり山々に囲まれているが、四季を通じて馴染み深い間柄にある。夏になると待つていたとばかりに各地からアルピニストが押し寄せて、松本駅は混雑に溢れて賑やかさを増す。都塵を離れて清澄な山々に憧れる連中で、さすがリ…

五月

腰がほんとに痛くなる老いの諸肌 砂文字がいくつ願いの岸に着くか 年中昼寝誰何の声のとがめなく 鉛筆とナイフこだわり篤くする 筥が黙つて笑つた闇を従え リボン誇らしげに強弱を語り まといつく正義の肌の汗ばむか 月が遮るひとつの甘い言葉 黙つて帰りあ…

六六二号(平成十年5月)

題字 斎藤昌三 表紙 茶掛 岸本水府 民郎蔵 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 石坂洋次郎さんの俳句 石川一郎 大空雑感 吉野圭介 川柳評明和八年万句合輪講(八十五) 誹風柳多留十三篇略解(六) 津軽の前句附点者−落合九三子−(二) 諏訪柳々 課題…

四月

話の中で不意に「あなたはいくつになりますか」と問われるときがある。歳を訊ねるのを嫌なひともあるが、無論そう聞く人は私より若い。挨拶代わりにごく軽くあしらうようだ。 人に聞く積もりなら自分の方からさきにあかすのが礼儀だと向きになる。「いくつ位…

四月

償いのいくつ数えてただに寝る 着る脱ぐの心覚えのひたすらに 死に遅れさてごもつとも無精髭 共有の愛の庁つぽたかが知れ ふるさとをめぐる愛憎のゆくえ 愛憎をもたせ故郷への溜め息 恬としてふるさと遠くうしろ向き 言葉遣いに一篇の情を尽くし 木訥に神馬…

六六一号(平成十年4月号)

題字 斎藤昌三 表紙 茶掛 川上三太郎 民郎蔵 カット 丸山太郎 おくつきどころ 里嘉矩 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 川柳評明和八年万句合輪講(八十四) 誹風柳多留十三篇略解(五) 津軽の前句附点者−落合九三子−(一) 諏…

三月

松本城の登閣文芸作品のうち、川柳の選を私が一年に一回行つているが、なかに県外のひとも多く見受けられる。年毎に多くなつたような傾向で頼もしい。 この頃送つて貰つた静岡市「ゼロ通信」と一緒に「春秋残照」を送つていただいたが、 風鈴はふるさとを絶…

三月

パラリンピックこころを凌ぐ顔顕われ 物の怪の凶器に囃す世俗絶て 空き缶に鋏鉛筆己も挿し 虎唸る熱砂に飢えの重なるか 風号泣好機不況の二枚舌 死期近しと思いきや虫と石と めらめらと非の打ち所なく仕切り 寝業師の衒うあたりのしたたる血 あさましき世事…

六六〇号(平成十年3月号)

題字 斎藤昌三 表紙 横額 麻生路郎 民郎蔵 『狂歌芝居百人一首』三種 武藤禎夫 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 川柳評明和八年万句合輪講(八十三) 誹風柳多留十三篇略解(四) 雀の羽色 石曽根民郎 課題「どん底」 所典夫 選…