十二月

 冬になると思い出すのは騎兵隊を志して馬に乗った父の事。閑院宮連隊長に二十歳なのに二十一歳志願で、長い間兵隊になった父は、痔でも一番痛い痔瘻に苦しんだが、私が脱肛で医者に診て貰っていたら、そんなに苦しんでいては痔瘻の俺を見習えよとよく叱ったものだった。
 外科に属する肛門医院に毎日薬をつけて貰うだけなにに、みんな寝そべって、ぞろぞろ屯していた。釣りに早く行きたいと言う人は好きな釣りの河の中を狩猟するため、冬の寒さで痔が出るという話がきつい。
 酒を少し飲み過ぎと告白する者もいた。私などは序の口であまり喋らず腹這って聞いた。自慢話のようで悔悟録のような仕組みがあった。
 快くなるような気分に取り戻したのは数年後で、けろりと忘れたように快くなった。治療法が進歩したのか、ほんとうに嘘のようだった。戦争が終わったのと一緒で、あんまり素気なくひとり喜んだのと、家族の者たちの笑顔に接してたまらなく満足した。
 そして歳の濃くなった此頃、否応なく前立腺肥大の予防策を夜眠る前に飲み込む。そして夜中に三度四度と何となく目を覚まし、小便の音をビンの中に入れてゆく生涯の適応性をしみじみ感じる。
   音楽はつづく
 人通りのない深夜の道を酔っ払いがひとり、千鳥足で帰って来たが、ふと小用をもよおし、見ると道のかたわらに柱が立っている。水道栓で、コックがゆるんだのか、夜のしじまに細々とした水の音をたてている。酔っ払い、これを柱と思い込み、根もと目がけて用をした。二分たったがまだジョロジョロと音がする。五分たってもひびきは絶えず、十五分たってもひびきは絶えず、十五分たっても流れはやまぬ。
 酔っぱらいは愕然となり、絶望のあまりシクシク泣き出した。そこを通りかかった巡査。「おいおいこんなところに立って何を泣いておる」
「もう駄目です。」
「どうした」
「小便がとまりません」
ふらんす小咄大全)より