1974-01-01から1年間の記事一覧

十二月

△前の店の「百趣」のお客様が寒そうだから、印刷所の事務所にあたためてやって貰えないかと、若い娘さんを連れて来た。塵を払い少し店を掃いたと思ったら、このお客様が顔を出した。ストーブに火を入れないうちに入って来たものらしい。 △こちらはうまい具合…

十二月

ゆっくりと歩く北風馴染ませて 何か不足な言葉尻捉えたり 敗れ去るいさぎよさ陽を浴びながら 思案した顔で雪道つづくなり 意気揚がるまさしく雪は頬を打ち もろく潰えて人の死に触れたばかり 一片の雲のゆくえと知って佇ち まっとうな話黙って従いてゆく や…

三八一号(昭和四十九年12月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえ あゝコント 所典夫 柳多留二篇輪講(四十二)

十一月

△すごく取り散らしたままで、どこになにがあるのかとあやぶまれるのに、本人はいたって平気で、勘がいいくらい手がそこへ行く。無雑作で物臭そうに見えて、それで心がおちついている。はたの者が見兼ねたつもりで、整理してやって機嫌を損じることになる。 △…

十一月

小鳥籠家の語らいとも合わせ 行き着くところを考えるただひとり 対話というソフトの味が監視され 魂は笑っていないツンとして 弟子ずらり並べ一家言たしか 傷ついた顔でむかしを呼んでくる あるべき姿でポルノ歩いてゆく きっちりはまる首輪の未開としての媚…

三八〇号(昭和四十九年11月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえ帰化植物 横内斎【横内斉】 柳多留二篇輪講(四一)

十月

△そんなに早く寢るでもないのに朝早く目が覚めるときがある。えてして齢をとると、いくら遅くまで夜更かししても、目の覚める時間はきまっていて、延長したゞけ遅寝していい筈なのに、おかしなものだと思う。その癖、えらく頭痛するととぼけ顔にもならず、の…

十月

すげかえの出来ない顔がちょこなんと 悔い少しある盃のちいささよ つぎ足しの夢のかなしみひとり笑う こたえにはならず振り向いてくれる ものはためしの美しい嘘を飾って 貰い泣きした世の風のいたみなど 酔いのすべてがこんなにもひろがった 高度成長みかぎ…

三七九号(昭和四十九年10月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえ 諤庵柳話(二十一) 田畑伯史 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(四〇)

九月

△久し振りで中学校時代の同級会をやろうじゃないあないかという話があちこちから舞い込んで来た。私が印刷を経営しているので、その通知には都合がいいということやすぐいい返事をしてしまうから、ついいつの間にかこうしたときには宛名を書く役目が当然のよ…

九月

老いの夢をたぐり始めてやや疲れ 善き計らいの落着は地べたなり 裁判を憎むうしろに気がついて 読みの浅さをたしかめていた蒲団 大人の智恵が出てしまいあじけなや ぽっかり浮ぶ雲誰か見ている 老いの果てを憎しともせずさからわず 求め合いながら静かな齢に…

三七八号(昭和四十九年9月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえハイジャックとマスコミ 岩本具里院 【―何故犯人に「たち」というのか―】 雑詠 大空 石曾根民郎選 柳多留二篇輪講(三九)

八月

△伜は山好きで、学生の頃は遊学から帰ると早速山に登った。だからあちこちに山友達がある。八月に入ってから山形県の山仲間が左馬の角将棋を持って来てくれた。北穂へ登る道すがらである。 △天童といえば将棋の駒の製作で名がある。そこで作られた大型の縁起…

八月

夢に見に来た顔でないジーンと来る 朝飯をすこし腹ごしらえとするか 物価騰る鼻面汗ばんで来たな 見事に敗れ去るとんぼ連れ立ち 墓の草いきれひたすら手を合わせ 酔いの底に坐ってやる小さな驕り 傷ついた振りして勝ち負けを気にし 埋もれゆく名をかざさんと…

三七七号(昭和四十九年8月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえ諤庵柳話(二十) 田畑伯史 浅岡修一氏に感謝する 石原青竜刀 【久良伎の松本旅行吟への疑問】 雑詠 大空 石曾根民郎選 柳多留二篇輪講(三八)

七月

△宿屋の名がそれとわかる浴衣を私たちは着込んで、まだ陽ざしの暑いさなか、屋形船に乗り合わせた。とても行かれそうもない忙しい日々を送っている身が、みんなに片押しに押される恰好で、無理強いに岐阜へやって来た。七月のとある日のこと。 △長良川の水が…

七月

ふと朝の目覚めの早さ語り合い くたびれた籐椅子だからわれを埋めて 闘いはこれからという顔を覚え 黙ろうとしないのはひとの貌なのだ 置いて行かれそうで蒼い空がある 美しい記事に救われてそして寢る 寝る前の星との対話いつとなく むき出しの声をいま聞く…

三七六号(昭和四十九年7月号)

題字・斎藤昌三 え・いしぞねなおえ抹茶とコーヒーの味覚 東野大八 雑詠 大空 石曾根民郎選 【私の川柳観 八坂俊生】 柳多留二篇輪講(三七)

六月

△いつも仕舞う時間になるので、シャッターを締めようと思ったが、二人の客が奥の方の「道草」から立ち去ろうとしないで、腰掛に坐って所在なくいるという。気を利かせて閉店のしおに乗ってくれそうなものだと、こっちは考えてみる。時間が時間だから、そこは…

六月

無駄だった道の広さに抱かれたり 気がついたときのおかしさ舌に甘く 果てしない静けさ向こうからこたえ 求むべき膝のかたさをさびしとす 何故かわびしく道草に咲いていた あわてないという片っぽのぬくもりよ 来るものが来たらちっぽけな虫のいのち 身のほど…

三七五号(昭和四十九年6月号)

題字・斎藤昌三 第二十八回長野県川柳大会 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二編輪講(三六)

五月

△五月の空に鯉幟が泳いでいる。蒼い空の色に融け込むように、みずからをまかせておおらかだ。伜夫婦は初め奥の空き地に立てたがだんだん上の方に持ちあげて、とうとう非常階段の一番上の手すりにくくりつけた。 △たしかにここなら広々と、あたりが開放的で自…

五月

気をとりなおしあったかい味噌汁だ 善は急げと誰に聞くひとりなり 廻れ右して見つかった小さい義理 もろく敗れたその顔がまとも過ぎ 細い道抜けて自分を見付けたく ほろ酔いのかなしい道かまたさがし 道草のなぜかむなしい骨が鳴る 筋を通してやっこらさ眼鏡…

三七四号(昭和四十九年5月号)

題字・斎藤昌三 川柳年鑑一九七四年版概評 石原青竜刀 奇應丸 小谷方明 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(三五) 二篇異見 八木敬一

四月

△奥は印刷所の事務所にして、空地を隔てた工場と連携してゆけば都合がいいが、表から廊下を通ってわざわざ顧客に事務所まで入っていただくことはちょっと迷惑がかかる。どうしたものだろうと家族たちと話し合った。 △そうかといって表に面したところに印刷所…

四月

青年の未知数こぼれコーヒー濃し はしなくも飾る身がまえのぞかれる 賭けたしとする片っぽの気を叱り 天に声ありと自分を力づけ 耳を澄まさん闘いの静けさは もの狂ほしき世の涯にまで着かず こそこそとのがれ得た目に出会ってた 傷つける言葉さらさらご存知…

三七三号(昭和四十九年4月号)

題字・斉藤昌三 江戸狂歌と真顔 浅岡修一 【―その一考察―】 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(三四)

三月

△朝ふと目覚めると、雨が降っている。近所に屋根のある家もあるが、南側のここの部屋で聞こえる音は、ビルに降る雨の音である。やはり音をしている。それはあまねくうるおす恩沢だ。 △今すぐ起きるにははたの者に迷惑と思って、よしなきことを考えながら、も…

三月

掲出句なし

三七二号(昭和四十九年3月号)

題字・斉藤昌三 孫の頬に 岩井汗青 雑詠 大空 石曽根正勝選 柳多留二篇輪講(三三)