1973-01-01から1年間の記事一覧

十二月

◆ここに移り住んで、子供夫婦の部屋からは南の空を、私たち夫婦は北の空を眺める。一枚のふすまが境になっている。廊下ではないので、まるで一緒に寝ているような恰好なのだ。孫たち二人は我が物顔にこのふたつの部屋を飛び廻り、仕事がすんで事務所から帰っ…

十二月

たかがペーパー買い漁る眉見せつけ おとしがみに気がつく卑小な顔だった 下がかった話が好きだ買いに行け ちりがみに並びゆく足早のいとけなや したり顔しておとし紙ふんぞり返り ころがって出たペーパー隠しもしない ちりがみに引かれて汗拭くあれよあれよ …

三六九号(昭和四十八年12月号)

題字・斎藤昌三 マスコミの優雅なコーヒー 岩本具里院 ―余りにも斬り捨てご免的な― 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(三〇)

昭和四十八年九月〜十一月

三六六号(昭和四十八年9月号)〜三六八号(昭和四十八年11月号) 蔵書欠本のため、寄贈資料にて確認とれ次第、更新いたします。

八月

◆いま工場の一部を新築して少し前よりは広くなった。表通りから奥まったところにあるので、顧客にはあまり目立たない。でも工場は操業していることをPRしているので、仕事の面ではさして量に於て支障はない。あいりがたいことだ。 ◆仮事務所だけは工場に隣…

八月

いらだちのこなごなならず寝に収め SLの徽章難なく煙を浴び 狂わしき世の隅に芽生えた姿 一心に咲きたい花を羨やむ気 自らをためそうと生きて来た証し 傷だらけのかなしみを誰にもやらぬ たかぶりをおさえた演技でもいい まっすぐな道だったという思いをこ…

三六五号(昭和四十八年8月号)

題字・斎藤昌三 史上最初の川柳映画と川柳年鑑の続刊 石原青龍刀 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 柳多留二篇輪講 猫じゃらし新発見 大竹沙華

七月

◆一年も二年も住むわけではないが、仮の住居である筈なのに居ついて見ると、毎日がそれなり気に自分の家であることで親しみが湧く。なぜだろう。そんなことを思う。いま新築している家が完成してから、いよいよ移るとなると愛着を感じるだろうし、たまには訪…

七月

ぬけがらがなまあたたかくころぶなり 生きる権利が待っていた目を覚まし あるべき姿に戻ってゆく小さかれ 傷ついたと見せて言葉いぎたなき ワル乗りのとどめしみつく油ぜみ 打てば響くにそのひとを遠くする 開発と保護を並ばせ山言わず 人そしる活字ギラギラ…

三六四号(昭和四十八年7月号)

題字・斎藤昌三 田中の局補正 大村沙華 【長谷川教授に答えて】 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(二八)

六月

◆家がたくさんあるわけなのに、なかなかいいのが見付からぬのが世の常だ。もっと自由だった頃、家の移転のかずを誇るようによくうつり変えてゆくひとがあった。いまはそうもならぬ。 ◆だが夜中になるにつれて酔客の騒々しい声に安眠が出来ないとなると、どう…

六月

殺伐をかいくぐりほんとうの顔 元をただせば隻腕に流れ足らぬ血 人知れず眼鏡の老いに尽きている みな笑い暮らしの底をかいま見し 蝉短きをうたいわれよ生くべしと 下手に振る舞うまっすぐな顔に逢い どこ押してみずからの蓋さがすのか 耳痛がってのがれ得ぬ…

三六三号(昭和四十八年6月号)

題字・斎藤昌三 頑固者の哲学 岩本具里院 ―付、柳多留初篇輪講上梓に寄せて オオサクラソウ物語 横内斎 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(二七)

五月

◆住んでいる家を改築するからには、どこかへ移転しなければならないので、あちこち物色することになったが、なかなか思うようにならないで、しばし足踏みをする恰好にもなった。 ◆町ぐるみなので、それぞれ住むところを決めてゆくわけだが、案外よそさまは手…

五月

稚くて荒々しくも目覚めさせ 文撰の指で濡れゆく白と黒 狂わしき世の淵で見せびらかす乳房 勝ち誇るおんなにやがてめぐり来る 相手の落ち目にわが過去もかぶさった なつかしがるだけでべったり坐り いと易く言ってのけ何かさびしや 人に誇るでもなくわが道に…

三六二号(昭和四十八年5月号)

題字・斎藤昌三 丸太ん棒の言い分 東野大八 【―鶴彬作品への私見―】 柳多留二篇輪講(二六) 句会報

四月

◆そんなことをさて引き受けてよいのか、ほんとうにうまくやってくれるのかと思った。名指しで、きっとやり遂げますよと励ましの言葉を添えて頼んで来たという。 ◆幼稚園を卒えて小学校へあがるお別れの式で、うちの孫が在園生を代表して送辞を述べるというの…

四月

いざり火のにごれるうみにまぎれゆく 銀鱗のひらめきと見し疑われ よごされて肩身の狭さ魚生きる あきないの鮮魚うつろに数を読み 献立に待ったの声を今日も触れ うらめしい顔のいわしよお前もか 基準量腹も身の内並べられ インフレをねじ伏す漢方薬が出番 …

三六一号(昭和四十八年4月号)

題字・斎藤昌三 諤庵柳話(十八) 田端伯史 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(二十五)

三月

◆ダンボールに包んだ川柳雑誌をトラックに積み込み、選ばれるべくわが家から離れてゆくとき私は感慨深げに見送っていた。何か心から頭を下げて惜別の気持と共に感謝のおももちもあったのだ。 ◆都市計画で道路を拡張するという要請があり、数年前から種々打合…

三月

革新をおだて保守をゆすっている流れ うけに入る革新やっと目を見張り 歯ぎしりの保守絶壁に胸を当て 万歳の歓呼を見てる硝子のなか 象徴を遠巻してる右と左 敬称を削らぬ記事で気を持たせ 歌詠みのしらべのなかで身をひそめ 歌詠みの身辺雑記ひとり酔う 類…

三六〇号(昭和四十八年3月号)

題字・斎藤昌三 柳田国男と信州 小谷六方 柳多留二篇輪講(二十四)

二月

◆ラジオ川柳で投句する人の中におおよそ三句くらいなのに、三十句、四十句の大量を見せてくれる熱心さのあるのに出会う。アナウンサーが私に、こういう投句はいかゞですかとたずねる。やはりぐっと精選したほうがよいと思いますがと答えておく。 ◆初心の頃、…

二月

胸に手を置いて見し夢消えかかり もの想うかなしさ月と知って寝る 大波小波寄る辺求めて向き直り 激動という怪物のいともなく 小さな声の反動の名が尖った ゆっくりリズムを縫ってゆくこの生きの身よ 忙がねばならぬまともな姿 裁く身を事前にけなし鳴りを鎮…

三五九号(昭和四十八年2月号)

題字・斎藤昌三 大根とチーズの味覚 東野大八 【「川柳平安」「川柳研究」論旨雑感】 雑詠 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(二十三)

一月

◎たしかに手を洗ったとき、時計をどこかに置いたことは記憶にあるが、さてさがしてもないとその記憶もあやしくなる。伜がそんなことで集中する精神度がにぶって仕事に手がつかないとわかると、家族のものは夕飯がすんでから、その場所らしいところをあれこれ…

一月

誰もとがめないという大人のとまどい 歯が抜けた想い静かな夜をおさめ ゼッケンの背のたかぶりを見せたがる 遠ざかる日をかぞえ或いはさがし いつか酔いのなかでおちつきはらった 政治的の声で吃ってはいないぞ 流れる雲が問うて姿を変える この齢で家を建て…

三五八号

題字・斎藤昌三 私の川柳観から −東野大八氏へ− 山村祐 柳多留二篇輪講(二二)