二月

◆ラジオ川柳で投句する人の中におおよそ三句くらいなのに、三十句、四十句の大量を見せてくれる熱心さのあるのに出会う。アナウンサーが私に、こういう投句はいかゞですかとたずねる。やはりぐっと精選したほうがよいと思いますがと答えておく。
◆初心の頃、闇雲に多く作った経験を持っただけに、多く作ることが一概にいけないとは否定出来ずにいる。至らぬ内容であるが、思うにまかせて吐いた作品を、ずらりっと選者に託して見るけなげな気持を察することが出来るし、また意地悪く考えると、選者をためして見る心構えなのかと思う。
◆長くたゞ川柳をやったゞけで、うまい句ができず、その上堂々と論陣をはる気負いも見せないまゝずるずると選者級の席を温めている自分を眺める。ほんとうにどうなのかときめつけられると、おじおじして答えにとまどい勝ちになったりしては大変だから、常に励まねばならぬのだ。
◆句を作る場合、ひっそりした部屋で、じっと想いを練るようないい境遇がまだ与えられず、日中せっせと事業のために稼ぐ働き虫でどこいらで働き過ぎるとけなしかけられそうになっても、生きてゆくことには仕方がないので、愚痴ひとつ言わず、ガムシヤラに働く身分だから、静かな部屋でひとりポツネンと句を詠む身分にはなれそうもない。
◆一番よいのはみんな寝静まってすぐ隣に妻が寝ている安堵で、このときこそ一人だと感じとってから闇をうごめく句の執拗な虫になり切る時間が嬉しく、眠いことなんか忘却の涯におき、ひたすらに頭脳のなかから句想を抜き出すべくノタウチ廻る。
◆枕元にエンピツと紙。何と長い間の好伴侶だナア。音をもないように浮んだ作品をすかさず書きとめる。静かだからチョット音がする。妻は「何やってるの」と機嫌悪く眠ったまま無意識のような風で言う。つい先頃まではこんな風で言う。つい先頃まではこんなではなかった。気を利かせて、黙って私の作句環境を見守ってくれたのにと思ったりする。この齢になったら身辺雑記でなく諷刺で衝いた時流に取っ組みたいと、心ではやるばかりだが。