1958-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽亥の歳に入らうとする少し前、まだ私達の歳であるとばかり犬が子を産んだ。奇しくも二十四日夜か二十五日未明である。よく考へて見たらクリスマスであつた。 ▽聖歌隊が毎年近所の信者の家の前で歌つてゆくが、なか〱いゝものである。雪がちら〱するやうな空…

十二月

雪消ゆるせつなさ想い並ぶなり 遠くおもふふるさとならで月新らし うたゝ寝やかゝる小さき廻り道 人の子は片付くほどと思ひやり 食ひ足らぬ言葉で終り睦まじうや 人間のみにくきがゆゑ雪を歩き 子のための金とは胸にうちひゞき 冬の死の山のむなしさ仰ぎゆく…

一九七号

表紙 城近く 丸山太郎 口絵 水仙 海沿いの道 武藤完一 【十一月号休刊の記】 柳誌月評 橘祐 【季評(其の二)】 川柳絵島生島(三) 大村沙華 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 この五人 石曽根民郎 本所深川(下) 正岡容 【わが東京記 遺稿】 合評「…

十月

▽どうしてかうおちつきのない口が続くのだらう。何か追はれてゐるやうな、いつでも問ひつめられてゐるようなドギツイ色を持つた一日ですらあるのだらう。静かなおだやかな日であることがかへつてをかしいのかも知れない。物情騒然といつた感じがある。 ▽そん…

十月

昼の酒都会に一人ぽちとなる 降りてくる星あり媚びるあはれさに たゝかひのうらに風持つたしかめる むかしむかし夢ありとしてうちかさね おしやべりのまことかなしや飯を炊く 厚き壁ありライバルを焼き付ける 表情のかたさ指環がにぶく光り いとしくも知性の…

一九六号

表紙 冬近し 丸山太郎 口絵 玉ねぎ二個 武藤完一川柳絵島生島(二) 大村沙華 庶民の詩と超人の詩 石原青龍刀 続・石曽根民郎の肖像 江端良三 葛飾夜話(上) 正岡容 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 合評「道」 小宮山雅登・岩井汗青・寺沢正光 句会報

九月

▽春と秋二回だけ数日を感動し合ふ。そこへゆくと人間なんかあさましいものだといふ。なんせ四季を通じて感動しつ放しだから。人間はこせ〱してゐるが、犬は天衣無縫、むしろ堂々たる風格があるなどと自分のことをほつと忘れてうそぶく。 ▽うちにはめす犬がゐ…

九月

河童内乱みぎとひだりのダンナさま 河童内乱平和を担ふデモだデモだ 河童内乱識者とやらの筆のさき 河童内乱常識ぐつと眠くなる 河童内乱俳句もジヤンルでは詠めず 河童内乱こゝろのきずを癒す閑 河童内乱文化業者が伸びをする 河童内乱色なき民にそゝぐ雨 …

一九五号

表紙 戸隠山 丸山太郎 口絵 万年青 武藤完一柳誌月評【季評(其の一)】 橘祐 川柳絵島生島(一) 大村沙華 課題「無沙汰」 高島盛人選 校正の虫・未知庵主人 磯部鎮雄 母袋未知庵の想ひ出 石曽根民郎 雑詠 大空 石曽根民郎選 病中寸閑 正岡容 山彦集 同人吟…

八月

▽右側から話されるとちよつとまごつくことがある。並んで歩いたり、バスや汽車に友達と一しよに乗るときは、なるべく自分が右側になるやうにしてゐる。先方で親しさうに聞いて貰ひたい風にして話しかけられるときなど、右の方の耳が遠くなつたのでその側から…

八月

平和の担ひ手のジグザグをよけさせ 多数決善意の底を眠らせて 実力の名の紳士たち時を稼ぎ 民衆を眼下に文化人の祈り 中小企業昼寝みじかきこの真顔 ロカビリー文楽生きるみちを許し 行動と辯舌に夢かきむしり 対立にまかす杭この杭の目覚め 教授つか〱と世…

一九四号

表紙 伊那菅ノ台発電工事 丸山太郎 口絵 瓦斯コンロ 武藤完一 写真 松本城 石曽根民郎〈詩〉の感受性と理解 河野春三 【青龍刀の川柳時評を読んで】 こびりついた記憶【同人雑筆】 長縄今郎 未知庵母袋光雄君の逝去を悲しむ 山沢好英 失礼な追憶 斎藤昌三 母…

七月

▽新聞ゴロではない。ゆすりとかたかりをするほど度胸はない。しかし金は集めてくる。何千円といふのではなく、五十円、百円がせい〱である。また来たかと追つ払ふ手でせしめて来た金であることは知れてゐる。 ▽この新聞屋は自分で書き、自分で編集し、校正し…

七月

心洗はれ島々の名を生かしむる 島々の灯のいくつかに生命をたとへ 運命ふりきれず島々あらはれる 去る人の背に島々は呼びかはし 遠き島々のゆくへにおのれを乗せ 島々の平和のいろにうながされ 戦雲は夢か島々人を迎へ うまれくる望み島々みな迫り 月を置か…

一九三号

表紙 伊那菅ノ台キヤンプ地 丸山太郎 口絵 貝三個 武藤完一 写真 重宝の松 石曽根民郎はまぐり 比企蝉人 続・石曽根民郎の肖像1 江端良三 はるけき夢 正岡容 雑詠 大空 石曽根民郎選 大藤二等兵の死と月食【同人雑筆】 二木千兵 山彦集 同人吟 合評「道」 …

六月

▽スピッツやチンコロは柔和だが獰猛な奴もいるゐる。立ち上がると小男なんかを遥かに凌駕するほどの偉丈夫となりさうなデツカイ天然記念物の犬がのし歩く。天然記念物でも歩くのが不思議である。ライオンそこのけに頑丈な檻のなかで所せましとあたりを睥睨し…

六月

戦争か平和か豪語強いくに 貧乏はにたにた笑ひわるびれず 咲くは貧乏よこの国のゆたけさ 闘ひのうた許しゆく黒い河 黒い河ぷすぷす夢をまた乾かし 教へない先生の声それは秘密 スカーガンかゝる思想がはなやぐよ 天皇の顔たまさかに棲む日あり 負けてはなら…

一九二号

表紙 白骨の宿 丸山太郎 口絵 ひぎがえる 武藤完一 写真 裏通りのバー 石曽根民郎柳誌月評【天馬賞】 橘祐 同人雑筆・来たみち 田内創造 裏通りからの松本城【絵と文】 中村善策 葛飾月夜(下) 正岡容 【わが東京記】 同想川柳・古咄・落語3 武藤禎夫 雑詠…

五月

▽後生大事に一足でことをすまさうとしてゐた私の不心得を叱りつけるやうに靴が二足になつた話をしなければならない。これがはずみといふものだらう。 ▽東京の甥の結婚式を目前に控へ靴だけでも何とかならぬものかと妻がいひ出した。一昨年の姪の結婚式はプリ…

五月

ひとつの舞台 線たるませ言葉の裏置いて来た 線ピンと張り合ひ生きる眸を読ませ 線が喋り線がこだはる暗い月 赤い線と青い線そのうたげを許し 気弱い線がおちて昔噺を聞かず 交はらぬ線のどこかで揚がる雲雀 垂れてくるあつちの線の匂ひをこめ 水を欲す互ひ…

一九一号

表紙 夏を待つ 丸山太郎 口絵 どくだみ 武藤完一 写真 「田舎樽」撰者の墓 石曽根民郎川柳時評・現代川柳の可能性 石原青龍刀 【天馬賞作品について】 課題「トラツク」 竹内伊佐緒選 「谺」 藤沢三春選 同想川柳・古咄・落語2 武藤禎夫 雑詠 大空 石曽根民…

四月

▽売春防止法の実施を待たず一ヶ月前に長野県の娼家は廃業して範を垂れたものの如くである。このハンデキヤツプがどんなかたちであらはれてくるか、それを恐れる人もあるし、簡易恋愛時代が来るのではないかとニヤリとする人もあるのである。 ▽赤線区域とか青…

四月

子を遠く置く齢なれやゆくりなし たゝなはる山いくつかは生きを明かし ほど〲に息を合せて眠たがる 生れ来る言葉自分をふと支へ 敵を愛する遠くで帽子脱ぎながら 闘ひはそこで終らず持ちこたへ 嘘からみ合つて苺がつぶれずに 静かな時を持つ願ひ近かれや 長…

一九〇号

表紙 小鳥を訪ねて 丸山太郎 口絵 海から見た別府港 武藤完一 写真 白壁の廓の跡 石曽根民郎とんだ霊宝 浜田義一郎 課題「網」 長縄今郎選 石曽根民郎の肖像6 江端良三 安曇平の山葵【同人雑筆】 森山静園 歌奴・口上・「紀州」 正岡容 雑詠 大空 石曽根民…

二月

▽ジヨルジユ・ルオーが二月十三日に八十七歳の高齢でパリーに死んだ。私はルオーの絵が好きで牽かれてゐたが、昭和二十八年十月二日に東京国立博物館表慶館でルオー展が開かれたときにみた。十月といふ月は美術シーズンでこのときも同じ上野の都美術館に一水…

二月

美男美女親のいびつがひとつの壁 向日葵の首を並ばせ美男美女 美男美女産れる顔が利き過ぎる 毛穴ひそかに語り合ひ美男美女 美男美女靴ずれほどの痛みこそ 敢えて愚問を待ちかまへ美男美女 美男美女いぶせき軒は夢に見ず 芝生すでにひれ伏しけむ美男美女 美…

一八九号

表紙 浅春の下呂温泉 丸山太郎 口絵 椿一輪 武藤完一 写真 福島将軍誕生地の碑 石曽根民郎 柳誌月評 橘祐 【『番傘』の五十年記念】 課題「冷水」 糟谷鼠介選 「時計」 名越新華選 石曽根民郎の肖像5 江端良三 雑詠 大空 石曽根民郎選 【松本駅掲出川柳】 …

一月

▽ふつと先日、民間放送の歌くらべを聞いてゐたら、会場は大阪の大手前会館であることだつた。ああ私もあの大手前会館のステージに起つたのだなとなつかしがつた。それは一月十五日のこと、番傘川柳社が番傘五十年を記念して全国川柳作家大会を開催すると聞い…

一月

なりはひの底をもたげてのぞく子よ むかしむかし気弱き群もありけらし たまゆらの胸のあかりを欲しがつて かの便り夢もわづらふ齢とある ひとつの運命ふたつは追はず燃えるなり 苦労して生きる掟の匂ひする かちどきは嗜虐をからみ行きに行く 光背へ貧しきこ…

一八八号

表紙 夜の一角 丸山太郎 口絵 自画像と蔵書票 武藤完一 写真天白神社にて 石曽根民郎 川柳時評 たのしきかな川柳 石原青龍刀 【『番傘』五十年に寄せて】 酒と手術 正岡容 【私の一生で一ばん大切なページの記録】 課題「灯」 豊島好英選 各地だより 東北=…