1972-01-01から1年間の記事一覧

十二月

○間違いもなく山崎茂登美先生が打合わせた時刻で松本駅に降りて来た。同級生の小山君が同道してくれた。小学校六年生の恩師である。私たちは長い間逢わなかった久濶を叙した。小学校卒業以来、何とまあ久しい顔合わせだろうと思った。大正十一年三月卒業だか…

十二月

ことさらに死のことを言う安けきか 雪どっと負う責めがある歩かせられ 届く手紙胸にこたえて読むならば 身のほどにうなずく唇が濡れてゆく 冬の重さがものをいう返って来る 月のほどよき欠け見てるほんとだな もろさ寄り合うひとときのおちつきよ 砕け散るみ…

三五七号

題字・斎藤昌三 抒情川柳の系譜 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(二一)

十一月

◇十月二十九日、須坂小唄で知られた須坂駅で降りて、さて塩野公民館へはどのバスに乗るのだろうと見廻した。オヤ深沢英俊君がいるな、これだなと思った。そんなに乗客はないままに走り出した。 ◇須坂の街並を通りぬけて、山のなかに入ってゆくバスが喘いでい…

十一月

何故か齢を考える枕洗って 人形の目が生きてにごれるわれに触れ 届かぬ夢でよし山は雪ひろがらせ もろい野望の底に息付く髭不精 黙って坐って見ておちつくものならば あやかってゆく卑屈それをのぞかせ ついてくる人の歩みに応えねば 笑いのかげにいでたちが…

三五六号

題字・斎藤昌三 「柳多留初篇輪講」続貂 長谷川強 恍惚の伝統への一発 東野大八 【―「番傘」の八月巻頭句の愕きー】 柳多留二篇輪講(二〇) 句会報

十月

○まさか外国の娘さんたちと汽車のなかで睦じくするとは思わなかったし、どうもつきあいの下手な自分にとって、これをどうあしらうことが出来るかあやぶんでいたのに、松本から長野の方へ向う汽車に落ち合うように、何となく膝を交える間柄みたいと感じてくる…

十月

罪がすりぬけて凱歌聞こえてくる みんないい人というその看板で 黙らせた過去のおぎない濡れた掌に 人知れぬさびしさ隠す齢なのか みんな忘れていいものかちょこなんと坐る とどまることを知らぬ振り風動く 自分を知った酔いのなかでのたうち 傷つけられた静…

三五五号

題字・斎藤昌三 俳句アイからする名句の所在 東野大八 【―川柳という名の短詩(山村祐)に想うー】 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(一九)

九月

○切符を買おうと出札口に向ったら、私より先に外国のおんなの人が、一万円出して通訳に聞くようにしていた。通訳というと、ただそれだけに用を足す風に考えるのだが、まるで友達のような若い女のひとで、たまたま見かける歌手の、眼鏡をかけた小柄な風采のひ…

九月

登るべき山の姿をそこに横たえ なぜか夢見たしと思う崩れゆく みにくい争いを見すごしてから衝たれ 見るからに意地悪き舌いちまいにまい 聞きただすゆとり忘れてたと思う 笑い納めて気がすむものならとかばい 許せないうしろを誰かが押してやり 思いすごしの…

三五四号

題字・斎藤昌三 顎庵柳話(十七) 田畑伯史 柳多留二篇輪講(一八)

八月

○だんだん自分の齢を忘れたいと思ったりしているうちに、少しはしんみりした気持になってさてと振り返ってみるものである。若い人が「ああいやだ、そんなにならないで欲しい、悟り切ったような句ばかりで、きざだなあ、あの人もとうとう落ちるところ落ちてし…

八月

にたにたとおこないすますひとに会い 列島に住みつく粒となりおおせ あさはかな気取りに似たり齢のおくれ 衣脱ぎ終えやっとおのれを見直すか 折返しなき道なれやまことめく しばし憩いのうたてしともたいなし 早き目覚めのわびしくもひとつふたつ 隙だらけ涙…

三五三号

題字・斎藤昌三 顎庵柳話(十六) 田畑伯史 雑詠 大空 石曽根民郎選 句会報

七月

△暑い日盛りである。道路に面した道路は東西にあって風通しが少しよい。事務所はその奥にあり、私はいつもここにいる。ときどき通路に出、外を眺める振りをして風にあたるのだった。ふっと外を通る人があり、その人が私を見た知った顔だなと思った。 △すかさ…

七月

大型化よごれっぱなし足の裏 大型化ちぎれた雲を見て戻り 年寄りの目覚め向うからも来る 読まれてる承知でふところに入り 一片の骨と化すいまそれも言えず 年寄りの一日一善辿りゆく 身辺を整理する暇またのがし どこかで虫が鳴くすがっていたこころ 荒い波…

三五二号

題字・斎藤昌三 続・具里院巷談(十四) マスコミと川柳(2) 岩本具里院 柳多留二篇輪講(十七)

六月

△左程高くないコンクリートの壁が隣との境となっていて、南面の太陽は四季を通じ万遍なくゆきわたる。見上げるような壁でないから、日照権なんていうしかつめらしい要求は考えたこともなく、至極カラリッとして誠に開放的だ。青空が見え、たまに飛んでゆく飛…

六月

生きた言葉が返ってくる目を覚ます みんな他人と思った日枕よごれて 求めゆくものありて誰も話さず 一介の町人といういまも哀しや 男の腕もまたやわらかく生きにあえぎ 肌のあとのおかしさを噛み老いの坂 いたずらな眸が生半可暑い夏 黙っててほしいむなしさ…

三五一号

題字・斎藤昌三 平安川柳社15周年 記念募集論文と作品所感 石原青竜刀 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二編輪講(十六) 【句会報】

五月

△素晴らしく足の早い男が誰かを追っかけてゆく。「どうした」と聞くと「いま盗人を追っている」「どこに」「あとから駆けてくる」と答えたはなしがある。宮川曼魚編の「江戸小咄」を若い頃古本で手に入れて読んでゆくうち、忘れられなかったはなしのひとつと…

五月

事もなく静かなブーム眺め合い 押しかえすちから自分が知っていて 見られてる顔で仕事に磨かれる 呼びとめた老いの同志の気休めよ 悔いのおかしさじわじわとひとりぼち 思いつき発言時に洗われる 受けてやるべき仕合わせが通り過ぎ せつなくも同じ思いという…

三五〇号

題字・斎藤昌三 川柳論のエキスとは何か 東野大八 ―「川柳平安」論文について想うこと― 続・具里院巷談(十三)【マスコミと川柳(1)】 岩本具里院 【句会報】

四月

△そこのところははしょってね、とすかさず五才になった孫はいうのである。夕飯がすんで、何だかトロトロとして来て眠くなった孫が、私を誘いこむように、一しょに寝ようと言い出す。ハイハイ、一つ返事で床を敷くと、孫も手伝ってくれる。いとしいものだ。 △…

四月

かかわりにふれる証しを拾うとき 分別に戻るかなしさひとり居る 廻り道してまた逢った顔さびしいな 遠い話でさりげなく盃を返す もう知っていておかしみが湧く明るさ くずれそうもない胸うち入ってやる 真実を通そうとするそして佇つ 解いて見せる言葉のうら…

三四九号

題字・斎藤昌三 籐椅子だんぎ 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(十五) 句会報

三月

△五十、六十は鼻たれ小僧だといってけしかける。あれで八十いくつだと聞いてちょっと驚くような活躍振りを見せる人もいる。でもあんな若いのに、もう杖をついてヨボヨボ足の運びのわるい人が、ベンチに腰かけてただションボリ休んでいるところを見かけると、…

三月

いい相手の男の子メンコは左ぎっちょ おじさんがやって見せたメンコうまかったナア いつしか疲れてねむるメンコまだ眠らず メンコのひげのピンとはね勝っている よごれたメンコの稼ぎ土を感じる メンコたまる陽だまりのそこの世界 いいとこ見せてるうしろに…

三四八号

題字・斎藤昌三 顎庵柳話(十五) 田畑伯史 続・具里院巷談(十一)【性慾(4)】 岩本具里院 句会報