1981-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽どこか可笑しくなっているのではないかと、頭をかしげることがある。事件がたとえば新聞に出たとする。昔は単なる子供だましのような、大岡裁きならすぐケリがつきそうなのがザラだった。此頃は刺戟的で、頭脳的で、なりふりなんかかまわぬもの、男と女の絡…

十二月

ガラス戸を透して圧すのさばらせ 鎮魂歌ものおもう花向き向きに 工作の塾せぬ午後の影落とし 見事な裏切り華やかさ従え 覚めた目をまた閉じ整える自分 ふと気付く何やら時をはからせて やがて立つべき渕なるに今日を持つ はしたなきかと今更の齢を加え 悟り…

四六五号(昭和五十六年12月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎柳多留廿七篇輪講(二) ひっぱり出した逸品 丸山太郎【画も】 川柳越後志(三十四) 西原亮 四、下越篇【西蒲原郡分水町】 酒呑童子と曽我神話 川柳人過去帳(九) 奥津啓一朗 三沢惣治 追悼 三沢惣治さん…

十一月

▽さすが十一月に入ると落ち葉が日毎追いかけるように、道の辺にかさこそ音を立てて舞いかかる。それを掃いて町内指定の場所に捨てにゆく。霜にへばりついた先客の落ち葉は、人待ち顔で迎えてくれる。うず高く盛り上がり、ときに荒ぶ風でゆらめき、充ち溢れた…

十一月

習性を庇い合わせる先が見え もろもろの姿をやつす世の映り 齢の驕りのほどほどの酔いながら 尋ねゆく心の寄辺だけ抱いて きっと来るその時のめる後つき なりふりをかまわぬという気の支え 何ごともなかったまでの想い持つ 思惑を超えてく金の別の顔 唸らせ…

四六四号(昭和五十六年11月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎柳多留廿七篇輪講(一) 川柳越後志(三十三) 西原亮 四、下越篇【西蒲原郡分水町】 西行の戻り石 川柳人過去帳(八) 奥津啓一朗 柳魂に生きる人々への偉大なる愛に 東野大八 【尾山兎耳氏の「川柳柳葉集…

柳多留三篇輪講・最終回(六十五)後書き再録

【輪講部分は省き、最終回にあたっての後書きのみ再録します。】(沙華【大村沙華】)以上を以て三篇輪講は講了といたし、読者永年のご愛読と供述各位のご協力を感謝したします。三篇着手が昭和五一年五月号の「しなの」。以来五年を費しました。初篇を八年…

十月

▽自分の句を批評して貰うことを待っている人はいる。忌憚なくやって下さると句の励みになるから当たらず触らずどっちつかずではなしに、ズバリ突き放して見て呉れると有り難い、その飾らない態度は好感を持てるので、個人的に提言苦言を差し上げる。 ▽本誌で…

十月

老夫婦いびき合わせていただけに その辺をまだうろついている世過ぎ もう冷めた顔でとりつく軽はずみ いさめては来た筈なのに齢騒ぐ そこまでで述べずに置けたこそばゆく なんべんもくり返す手で後始末 取り直すそんな短かい話して 曲り角誰もおだてず向き向…

四六三号(昭和五十六年10月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎諤庵柳話(二十九) 田畑伯史 心傾けて 丸山太郎【画も】 川柳越後志(三十一) 西原亮 三、中越篇【三島郡寺泊町野積】 ミイラを拝む弘智法印 川柳人過去帳(七) 奥津啓一朗 雑詠「大空」 石曽根民…

九月

▽九月に入ると、またみんなに会えるんだ、達者かな、そう思う月である。中学校で学んだ同士が年一回行なう同級会を九月と決めたのはこの数年前、きちんと今日まで来ている。 ▽会場は浅間温泉。本通りの繁華街から離れた山手の閑静の地を自然と選んだというの…

九月

一管の笛に託していまも消えず 訊くとなくいつか身につき目のあたり いさぎよく胸に描かせはぐれ鳥 年甲斐もなきはしたなさよごれたる 分け入って老いの好奇の物惜しみ はたと膝打つ間抜けさを責めてない 順応のかたちでとどく薄明かり さし当たり濡れ手拭の…

四六二号(昭和五十六年9月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎京都の前句附及び江戸収月評・川柳における 同想類句の系譜 ―「団扇では……たた【ゝ】かれず」の句型について 大野温于 川柳越後志(三十一) 西原亮 三、中越篇 【三島郡寺泊町】 寺泊哀愁 夏水仙 丸…

八月

▽暑い日盛り、家族と一緒にお盆の墓詣りに出掛けた。孫たちは可愛がった犬と兎の小さな墓に頭を垂れていた。 ▽帰って来たら京都の吉野良三君が訪ねてくれ、私のいない留守と知って他へ向かったという。惜しいと思った。こちらにおられた頃は川柳句会によく出…

八月

過去だけの思いに流し安んじる 生きている証し澱みのその隅に むらさきのいろ遠のいてゆく灯り あとやさきうすくれないを描かしめ 拭うべき恥ことさらの顔ならで わやわやと遠い親戚宿とって こと金が語る仕組みに乗ぜられ さて静かな道と気がつく肩を寄せ …

四六一号(昭和五十六年8月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎北斎と娘お栄の川柳 石川一郎 ―付・信州小布施のこと― 急がねばならぬ大切な事 丸山太郎【絵も】 川柳人過去帳(五) 奥津啓一朗 川柳越後志(三十) 西原亮 三、中越篇【三島郡出雲崎町】 良寛と鵬…

七月

▽選をしている地方新聞柳壇で 吾輩は千円である拾うなよ 武田 渓泉 を採り上げた。 ▽間もなくよみうり時事川柳に わが輩は千円ほどかと苦沙弥をし 関根 朝敏 を見つける。 ▽漱石が大学で講義をしていた頃、或る日、片腕を懐手してノートをとっている学生を見…

七月

碁敵の合羽風情のおなぐさみ 吊り下がる紐病み呆けし目を攫う そのうえの狂気の沙汰のくびれ乳 消え残る蛍火だけに克てない喪 みみっちい堅気に懲りた上り口 寄せつけぬ嫌味たっぷり雷鳴す 可笑しくて駄洒落もふまず締めくくり ダメ押しを逸らす藪蚊が飛んで…

四六〇号(昭和五十六年7月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎切支丹・絵踏 多田光 雑俳雑記(四五〇号)訂誤 鈴木勝忠 川柳越後志(二十九) 西原亮 三、中越篇【三島郡出雲崎町】 紅燈び出雲崎 川柳人過去帳(四) 奥津啓一朗 奇縁を大切に 丸山太郎【画も】 …

六月

▽ひょいっと思いついた頃になって寄るとき「御無沙汰しました」そういって、住んでいる土地の手焼きの煎餅をいただく。以前こちらにいて子沢山、野菜などを油で揚げ、これを近所の官庁のお昼の仕出しに持って行くおばさんだった。ご主人は定職がなく、でも器…

六月

山姥の焚火もみ消す乱杭歯 どこで撞く鐘足裏を盗み見ず ゆるる露蛇がくわえし果し状 破局見とどけしうえは咳に咳く けもの化けそこね髭焼く火の車 雑草のむかしと同じかぞえ唄 こな薬頬に散らかる思いやり 警世の斉しく千の耳が立つ 恥多きともいう齢につか…

四五九号(昭和五十六年6月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎八幡の真顔と畠山忠雄先生 浅岡修一 狂歌探訪余話(三) 山菜の野沢温泉 丸山太郎【画も】 川柳越後志(二十八) 西原亮 三、中越篇【栃尾市栃堀】 悲劇の白拍子静御前 川柳人過去帳(三) 奥津啓一…

五月

▽書斎はない。書斎のないのが当然のようである。私らしいとつぶやくのがわたし。此頃すっかりあちこち鈍くなったせいか、すらすらと吟詠ができない。ここで書斎があればしっくりするのだがと、ちょっと贅沢をいってみてもはじまらず、ケトンとしている。 ▽孫…

五月

世間体だけにかまけるひとくさり 胸のイニシヤル鮮かな負けっぷり 安請合い自画像がしきりに目配せ 釣銭のいつか濡れててふたつみつ 暗すぎる世間をたたむ朝の慣れ 苦しい大人がわかるマンガ本の続き いずれそうなる姿なり見たほどに 無駄なお節介おとなしい…

四五八号(昭和五十六年5月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎狐川考 比企修【比企蝉人】 川柳越後志(二十七) 西原亮 三、中越篇【栃尾市塩谷】 空海芋石霊験譚 弘法の市 丸山太郎【画も】 川柳人過去帳(二) 奥津啓一朗 鈴の音 渡辺晃 雑詠 大空 石曽根民郎選…

四月

ゲンナマに夕陽が呉れた強がらせ 肚読めて一皮むきにお邪魔する ご同様野暮用ながら骨っぽく 先越して見せた勝気のドン詰まり 頼まれた祝辞いささか抜き放ち 妨害の欣びと言うボロ隠す 敢えてキザにつくろうここもひとつ覚え 推敲の辞世重ねる尻からげ 政治…

四五七号(昭和五十六年4月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎塊人こと柳屋徳兵衛の話 東野大八 川柳越後志(二十六) 西原亮 三、中越篇【栃尾市軽井沢】 腕を斬られた茨木童子 川柳人過去帳(一) 奥津啓一朗 つわぶきの花 丸山太郎【画も】 沖縄旅行その四 雑…

三月

三月 ▽冗談文字といっても、せいぜい二、三行、それも字詰が五字くらい。時局を活写し、風俗を揶揄する。辛辣とシャレがふっとただよう。川柳作家でこれに志向をこめる手合いがあり、檄を飛ばし自選作品を寄稿して貰い、特集したことを思い出す。 ▽そのひと…

三月

老いの美しさをいう毀れよう わかったことはそれなりに待つこころ よくものが見える果てとも思い知り 順々に去るこそばゆい世のうねり 執着のそんな気取りが先に立ち 老夫婦押し押しもなく暮れなずみ ほんとうのあるべき姿まで歩く しのび寄るなにかを覚え落…

四五六号(昭和五十六年3月号)

題字・斎藤昌三 表紙・いしぞねまさかつ カット・丸山太郎「不許蕎麦入境内」聞き書き 江端良三 又吉さんの銀細工 丸山太郎【画も】 沖縄旅行その三 川柳越後志(二十五) 西原亮 三、中越篇【長岡市乙吉】 花と鬼の武将譚 雑詠「大空」 石曽根民郎選 柳多留…