五月

▽書斎はない。書斎のないのが当然のようである。私らしいとつぶやくのがわたし。此頃すっかりあちこち鈍くなったせいか、すらすらと吟詠ができない。ここで書斎があればしっくりするのだがと、ちょっと贅沢をいってみてもはじまらず、ケトンとしている。
▽孫たちはそれぞれ机を持つ。女子中学二年生は一人占めしたような恰好の机。男子小学四年生は松本民芸家具と銘打ったガッシリしたのを別に誂えた。女子幼稚園二年生はこじんまりと、二番煎じめいた足を曲げると平びったくなる机。それぞれ所を得て夢を描く。
▽画に遊ぶことの好きなまさかつは目下笑いばなしに熱中、図書館から借りて来たいくつかの本が並ぶ。「オジイサン、寄席のはなし聞かせて!」という。なるほど私の書庫から引っこぬいた小島貞二さんの「反対ぐるま」を読破、興味津々といったところ。
▽しかし「じゃりン子チエ」も愛読している。第一巻から第九巻がズラリ。その横に「がんばれ!タブチくん!」や「フータくん」が仲よく肩をすり合う。勉強の方は終始宿題の手ぬかりで、オカアサンの手を焼かすのだが。
▽文庫本、宇野信夫の「江戸の小ばなし」が居間の棚に載っている。伜が読むつもりか、そう思ったらまさかつである。長大息して曰く「知らぬ漢字が多くて読みにくい」そこで森三郎「昔の笑ひばなし」を与えた。旧カナだが、少しはルビがあり悦に入る。
柳亭燕路「子どもの寄席」六冊を次ぎ次ぎ図書館から借りてきて寄席づく。矢野健一「けっさく笑いばなし集」さとうわか子「小誌さなわらいばなし」もこなしたらしい。総ルビの、ちと古いが昭和四年刊「落語全集」三冊を書庫から持って私が「どうだ」そういうと、すかさず納得した按配。
水谷準訳「ふらんす粋艶集」を持ちだそうとしたから、それだけは早いとからかった。頃日、胡椒をふりまいて困らせる咄があると伜が言い出し、どんな筋だとまさかつが訊くので東大落語会「落語事典」を取りに行く。
▽長じて次は加田こうじ「落語」安藤鶴夫「名作聞書」だが、その時にならぬと何ともわからない。