1962-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽私たちが心をこめて詠い上げている川柳の渕源はどうなのだろうという思惑から考えても、「柳多留初篇輪講」の始まつたことは、何か私たちを益することになると思う。その評釈も前句の判明しなかつた頃と違い、あきらかになつている句もある現在、新しい視野…

十二月

逝く年のうたはこころに住むという 風を呼ぶ逝く年の瀬のかくばかり 人の死を思うくだりに逝く年よ 髪うすくなり記憶あたため逝く年に 冬の花逝く年にわがあくがれよ 人それ〲に生き逝く年の重く重く 老いの眼に縫う妻よ逝く年もあれ いくばくの齢ありや逝く…

二三九号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 常識に還れ 江端良三 戯評【いやつたらしいはいく】 渡辺幻魚 柳多留初篇輪講(二) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 合評「道」 雅登・汗青・正光 句会報

十・十一月

▽九月廿九日、朝発つときに同じ東京へ行く近所の娘さんと一緒だつた。私だ弁当を食べているとよく気がついてお茶を買つてくれたり、週刊誌を代り合つて読ませて貰つた。東京に移り住んだ姉さんのところへ行くのだそうな。 ▽案の定、新宿駅の出口に渡辺蓮夫君…

十・十一月

牛乳をあたためる枯葉も素直だよ 思い出のきびしさがなお腹這わせ たくみな演技に紙幣すらも目を見張り きりきり舞いして男の肌を済ます 木枯の歌だが負けてもならず 人の死のやがて自分に戻つてくる 女が読みとつてくれる安易な膚で 慰めが下手盃がころんで…

二三八号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 【川柳時評】 一つの川柳博士論文 石原青龍刀 【河野春三著『現代川柳への理解』】 柳多留初篇輪講(一) 吉川英治と川柳 篠崎しげを 続・医者と川柳 鈴木重雅 明治狂句界の一断面 奥津啓一朗 【―川柳史基稿―】 雑詠 大空 石…

九月

▽九月十五日、予定よりも少し遅れて午後一時近く岡山駅に着いた。国鉄バスで倉敷へ向う。知つている筈なところの案内に、案外自信なさそうなバスガールをあきらめて兎に角倉敷駅で降りた。 ▽高校生が駅通りを清掃している最中だつた。学生に聞くのが一番安心…

九月

むらさきのいろを匂わす記憶は垂れ 階段がいくつも記憶をからかつている やりきれぬ記憶波は白く碎けて 善き記憶のかずを読みおぼろげな凱歌 泳ぎつかれた記憶もたげては見た夢 記憶がすべつてゆくわらべうただけ残し 一本の綱がだらり記憶をだまそうとする …

二三七号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 信州雑俳史のための覚書 宮田正信 辞世句碑と辞世歌碑 本山桂川 【―探碑余談―】 川柳「関所のばば」 花咲一男 続・医者と川柳 鈴木重雅 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 合評「道」 雅登・汗青・正光 句会報

八月

▽水を撒いていると、ひよつとした拍子に、通り掛りの武士に粗相をする。「無礼者め」といつて、矢庭に刀の柄に手をかける。あわやと思うとき、奇特な人があらわれて、傍若無人の武士をやツとばかり取つて投げ、みせしめのために急所を突くと、へな〱と崩れゆ…

八月

知りすぎた昔で牛鍋が煮える 肩がないほどに酒仙詩をそらんじ 胃袋をなだめ小さな闘いよ 巧まざる抱負のなかで国をさがす 想いをこめし野糞たり月は遠きや ぬけぬけと人生語録いま並べ 善戦に素知らぬ昼の月がある 秋を置く罪よりのがれんとする身に いじら…

二三六号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 風土について 鳥羽とほる 【〈伝統派俳人の立場から〉】 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 花柳明暗7 奥津啓一朗 句会報

七月

▽朝起きたとき、また工場のものが帰つたあとの夕方、きまつたように路地を掃除する。水をまいて箒で掃くだけである。 ▽それはいたつて几帳面のようで変哲もない日常性というものであろう。こんな余技があるんだなどと見せびらかす気持はなく、惰性に似たしぐ…

七月

いそぐ旅ならずおちぶれも思わず からくれないにわがいのち念じゆく 酔いのかなしみひとり知る時のおごり 辞書繰つて心足らわず曲げもしない 畜生の深からぬ寝顔にさえも 月への旅思うわが名小さかれ 寝酒ふくむいらだちの身のもうひとつ まこと至らぬ明け暮…

二三五号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 新版戯気縁起 市橋鐸 私のあるレジスタンス 山本芳伸 文日堂と課題吟の創設 阿達義雄 雑詠 大空 石曽根民郎選 【承前 違鷹羽をめぐる紋々の検討】 東都二大吟社の盲点 池口呑歩 課題「おかめ」 山岸実茶選 花柳明暗6 奥津啓…

六月

▽かつしかの川柳人といえば、大森不及さんがすぐ思い浮かべられる。それほどかつしかの風物を属目してつくられた。その殆んどは「川柳研究」に発表している。 ▽それでも「しなの」にも投じてくれた。そして句評にとりあげて特異な句風、真似られぬ技法を指摘…

六月

盃を拭くはしなくも他人なり 盃をいただくばかりここも泳ぎ 缼けた盃死ぬほどの顔がある 盃をおもたがるこの心の掟 古い義理を果す盃くらべてる よこしまな胸に盃強いて強いて 男の盃が読むそんなへだたり 膨らむ心に盃がころげてく ふるさとを消す盃に雪が…

二三四号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 (口絵)孤島 中村善策 柳誌月評 橘祐 雑詠 大空 石曽根民郎選 むぎわらへび 比企蝉人 山彦集 同人吟 合評「道」 汗青・雅登・正光 句会報

五月

▽甥の結婚式に妻とよばれたので上京した。結婚して二十数年になるが二人きり旅に出、汽車で肩を並べるのは実は初めて。お互いいかに我慢して来たか、お察しがつこう。ほんとうは連れてゆくつもりがないので、いいのがれだと思う人の気持もわかるが。 ▽型のご…

五月

そこでふれることの惧れ肌のぬめり たちまちに傷つき合える顔もせむ 字を並べゆく気休めよ愚かさに 遠くでまさぐる齢の静けさをさがそ はがれゆくひとの痛みも想い居し ひとの死の底ひややかに雨を流す わが死を描くすつくと起ちおどろおどろ 酔えばはしたな…

二三三号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 川柳時評・ここに川柳あり 石原青竜刀 【―核爆実験再開と川柳作品―】 お見それしました(山村祐氏へ) 高鷺亜鈍 川柳評万句合に於ける違鷹羽紋【一】 阿達義雄 【―違鷹羽をめぐる紋々の検討―】 花柳明暗(六) 奥津啓一朗 雑…

四月

▽久し振りで京都へ出掛けた。四月一日に平安川柳社が創立満五周年記念川柳大会を開くのでその選者に頼まれ、例によつて仕事のやりくりを済ませ、そそくさと汽車へ逃げるようにして小さい旅は木曽路から始まつた。 ▽京都駅に着いて宿舎へ行くバスでまずあわて…

四月

男が負け女が勝つて收める翼 いのち横たえベツドにも月の詩が 酔いにのがれ短かきおごりそこに置く すりきれた悔いに近付く足音か いとやすき涙と見られ恙なし 小さき吾をいたぶる酒に落ちゆく さざなみに応える言葉男もさがす 色彩は鮮烈壁を押せども押せど…

二三二号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 明治初年のうかれ節興行 中村幸彦 【―舌耕文芸史資料断片 三―】 花柳明暗(五) 奥津啓一朗 書評・中村富二句集 小川敬士 課題「ペン」 上条義郎選 詩論の花束はもうたくさん 山村祐 小田原提灯と小ともし 穂苅三寿雄 雑詠 大…

三月

▽平素おちついたような顔をして取り澄ましているので、よほどきつい御人だと思われるのが癪である。とてもどうして、これは、というときにあわてふためくのである。よそ目にも痛々しいらしい。 ▽いつも無精髭ですませているが何かの用事で、どうもその髭では…

三月

言葉にはならず善意の齢を読まれ 強情が通りバツクは荒い波 恋はよごれパフ早春をたたき出す 友情の拳に太陽は燦々 障子白くひとりの味の齢を数え 灯にさからう絵皿の翳を愛すなり 春泥に逢えてかなしき絵看板 声援を遠く意識す星をちりばめ 春炬燵人を逝か…

二三一号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 詩論の花束 高鷺亜鈍 【‐主として前衛派のひとびとに贈る‐】 川柳への道 障泱リ能州 花柳明暗(四) 奥津啓一朗 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 合評「道」 汗青・雅登・正光 課題「瓦」 二木千兵選 課題「幕」 三枝昌…

二月

▽いつも見守つていてくれ、思いもかけず声をかけられると嬉しいものである。昭和三十六年一月号から本誌の題字は斎藤昌三さんの筆だが、ひよつこり送つてくれたものである。初めは少雨荘という署名であつたが、本人の希望で途中で削つた。これを送つて寄こさ…

二月

のがれたつもりの死声が追つてくるよ 聞き捨てならぬ言葉死が宙に浮く いたずらに死を動かして齢の阿呆 大きい死口説の果てか枯野の果てか めでたがる死よ心の花火あがつてくる わかれを惜しみゆく死遠くのざわめき 全き死の顔に春の月を置いて 短かつた死冬…

二三〇号

題字・斎藤昌三 表紙・武井清志 川柳由比正雪 大村沙華 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 近頃感じたこと 中野懐窓 課題「階段」 岩井汗青【選】 句会報