五月

▽甥の結婚式に妻とよばれたので上京した。結婚して二十数年になるが二人きり旅に出、汽車で肩を並べるのは実は初めて。お互いいかに我慢して来たか、お察しがつこう。ほんとうは連れてゆくつもりがないので、いいのがれだと思う人の気持もわかるが。
▽型のごとく済んで甥を新婚旅行に送り出してホツとする間もなく翌日私たちは子供の就職先に挨拶したり、入学した子供の下宿先を見舞つてやつたりした。相憎雨でビシヨビシヨする道を、故郷から離れた子供たちを連れて歩いた。そしてそそくさと別れて来た。
▽その翌日、五月十三日は白帆創立十五周年謝恩大会が品川浴場会館にあり、かねて選者に予定されていたので出掛けた。発行所は川崎だが集まる者は東京柳人ばかりだつたから気安くうちとけた。
▽若手というかたまりや、年寄り連中みたいなグループが仲よく苦吟した。あとは懇親会になつて東京らしい空気にふれてもみた。
▽夜行列車で帰宅すると思わぬ友人の訃報が待つていた。中学時代から今日まで何とか親しくした丸山芳人君が突然逝くなつたのである。驚き且つはかなさを思つた。
▽丸山君の長男の結婚式は既にきまつていて、父のいない席上で披露宴がとりおこなわれた。かきむしりたいような淡い心の曇りがただよつていた。しかし、みんな二人の前途をいちずに祈つた。
▽それからまもなくいつもいただいている俳誌をひもどくと、竹馬の友、内山一也君が愛娘を喪われた悲しみを詠つていた。嫁いで初めての子供さんを生んで、そして他界されたのだ。
 花の雨妻泣くときはくまじと
 花供養可愛や釈尼妙晶よ
 春燈下「赤ちゃん読本」老いの眼に
 春の夜の小さくなりし汝が父母
 春服の若き母より眼をそむけ
▽しみじみ味わされ、悼みの手紙をしたためた。相州大磯町の波のかなしさをこころで聴いた。
▽川柳家の北村雨垂さんは嘗て娘さんを逝くされて
 月のない夜は死んだ児が居ると想う
 子の骨をたくすこほろぎ繁き土
 死んだ児が笑つている落ちている
▽ひそかにこもる人の世の、じつと耐えてゆくはきびしい。