1997-01-01から1年間の記事一覧

十二月

懇ろに文通を重ねていた仙台の浜夢助さんと知り合って数年、ことらに川柳大会で開催するが、是非ご出席を賜りたいとお手紙を戴いた。その頃、入歯の年齢時期で思い切って歯医者に治療をお願いし略出来上がった。君は何時入歯をと聞かれると、この川柳大会が…

十二月

猿芸の巧者に澄ます軽い椅子生活のためにふるえる強さとは真相の裏むくむくと雲たしかめ業背負いふんどし如き余り持つ冷たい手自分ひとりを逃がすまじ高齢を尽くすまにまに左手右手恨みぴかぴか闘いは卸さない不行儀に鎮もり生きて底の底死後がついてくる高…

六五七号(平成九年12月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 裏からみた新聞文芸欄の虚実 東野大八 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 二度目のきび団子 石曽根民郎 川柳評明和八年万句合輪講(八十) 誹風柳多留十三篇略解(一) 【民俗雑記】「…

十一月

毎朝、家を出て滅多に歩いてゆくことがない。どうもこの脚では工場まで三、四十分掛かりそうだ。 身体の運動はいいことに違いないが、それでも夕方ぐるりと出発点のわが家からやっと三十分散歩して「ヤレヤレ運動をしたぞ」とひとりで満足している。顔馴染み…

十一月

貧しい思惑だってよかろう山が見ているぼんぼりの転寝そっと花火に叱られねんごろに声立てて棲む大きいぞ秘事かくし合い鷹揚の足掬い気の強い街で夢の譜が逃げた濡れ鴉干し鳥決め手のかくれんぼカップで眠る昵懇のなかにひそめ果油ちびり夜忘れねぐらこじん…

六五六号(平成九年11月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 過ぎし日 浜【濱】本千寿 行き先方々に【スズメ夫婦】 石曽根民郎 川柳評明和八年万句合輪講(七十九) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十…

十月

とても早起きなんかと自慢するほどの時間に目が覚めず顔を洗ってから常の如く、ほど近い何やら祀る神社に儀礼式に則ってうやうやしく礼拝する。 由なきこと、悪しき事を打ち忘れたい無心に合掌の幾日かが続くのだ。 晴雨を嫌わず、嵐気に怖れぬ行動は常とは…

十月

父よりも母よりも歳重ねつつうつせみにあずけてひとり碑を洗う老い二人山が抱き時も大きく境涯の砦きびしく温かや両面の愛が具わるかの珠玉鮮やかに弔う歌を聴く今ぞ殉難に川の名忘れぬしのび泣き眠らばや効かぬ薬のその奥に愛憎を越えて谷間の風と化し悠々…

六五五号(平成九年10月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 川柳・江戸【の】女と煙草 石川一郎 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十八) 川柳評明和八年万句合輪講(七十八) 【民俗雑記】恵比須講と誓…

九月

メゾンとはサロン風の高級食堂か、家、住宅、特に日本ではマンションの名へつけて用いる。老妻と住んでいる別宅のその隣がメゾン浅井の名称で上下階六軒宛が住んでいる。独居、所帯持ちで、勤先は聞く必要もないので知らずそそくさと急がしそうに出入りする…

九月

丸かじり短篇のウィットが上がる老害のしこりなだめてお静かにいずれめぐる老いたおやかに独り言接点でかゆくてならぬ言葉たち興亡の軌跡黙って呼んでおこう百歳に遠く草臥れゆく吹き矢凡人の好さをにじませ水がうまい耳の上を抱いて鎮まる夜の私話打ってつ…

六五四号(平成九年9月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 短詩型ささめごと 室山三柳 川柳評明和八年万句合輪講(七十七) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十七) 【民俗雑記】村境の藁人形 胡桃沢…

八月

畑といえば素人がちょっと気を好くして手入れの少しを見せたばっかりに功を奏するといえば大げさだが、その成果として自然は嬉しいもので、熟したものを見せてくれる。 ころりと小さいトマトを頬張るとき、酸っぱさと甘さがひろがり気取った振りをして歯に当…

八月

こおろぎの身の上ばなしいち早く夏負けに心安けく齢洗う老病につなぐゆかりのひとり舞古患えば老いの口添えからまして短にして小の兼ね合いまだ生きる自らを養うほどの力水あやしげに杖を気品として見るかワンテンポ遅れながらも気のおごりこの自分に怖れを…

六五三号(平成九年8月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 明治前期変わりダネ百人一首三種 武藤禎男 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十六) 川柳評明和八年万句合輪講(七十六) 【民俗雑記】諸勧化…

七月

向日葵が大きくなり、私のせよりも高く見上げる。ひょろひょろと気弱な格好で、どうも私に似て細い。向日葵ばかりの何百と見事な農園と違い孤独を構える姿。 モロコシがずらりと幾本か勢揃いして可愛い、風が吹くと、ゆらゆらと話し合っているようだ。 大梅…

七月

かわり映え近く控えてまばたかずすれすれの危うさぬるま湯が好きに変にこだわり利口ぶる味か知らいつくしむ足の痛みは自分のもの惜敗の小気味よさ風にも聞こう近い将来という道連れにごく懇意あけすけに窮地の尻っ尾まで濡らす齢がこつそり教えてくれる加え…

六五二号(平成九年7月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 信濃の狂歌(一二六)【七、長野地方(六)】 浅井【岡】修一 川柳評明和八年万句合輪講(七十五) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十五) …

六月

父は世話好きで、困っている人を見ると手を取ってやる方だったが、恩誼を感じて丁寧に接して下さったことを思い出す。 そんな経緯を知っているものだから、私にまで気をかけて下さるので恐縮する。父が逝くなってからもお付き合いが続いている。 幾人かあっ…

六月

忘れっぽく静かな月が黙ってる気の利いた話でそっと座ろうか人を識るひとを得る間のまばたかず会談の用意生き身にひと鞭よこなれてく腹の動きの手厚くて光景のいくつか励むプラス志向誇らしき気運育てる外はない不憫にも小さな行李居据わって散発の試案うな…

六五一号(平成九年6月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 川柳下女考 石川一郎 川柳評明和八年万句合輪講(七十四) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(十四)【二十四】 【民俗雑記】諸勧化押売遊芸物貰…

五月

まだすっかり朝が明けないときふと目が醒めた。起きるには早いし、うすぼんやりしているのも、せんないものだから、ラジオでNHKをとらえた。 インタビューが始まったらしい経過で、かわもり・よしぞうという何だか聞き覚えの名前だった。九十五才、家内も…

五月

よんどころないウエーブよ負けて越えて埋蔵の神秘世俗を洗いつつ延命の慈顔ひたすら慎しやあやふやにめぐる歳とのおつき合いしかめ面図られまいと月には見せるせめて生まれ変わりの彩をちりばめたかがちびりで酒徒たりと本意身の上の曖昧さ拾わせてばかり時…

六五〇号(平成九年5月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 懐しの麻雀だんぎ 東野大八 川柳評明和八年万句合輪講(七十三) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十三) 【民俗雑記】諸勧化押売遊芸物貰い…

四月

極彩色に印刷したように見せて実は印刷に彩色をほどこした手彩色絵葉書、明治のおんなの部類では単式とは別に色を添えたものを見かける。父が蒐めた画のなかのみんな気取った姿。浮輪を持った二人の海水着。大根を切っている笑顔。袴を履いて洋傘を差した学…

四月

長生きと長寿並びてまだ早いさよならと言わないまでも押しつくらはみ出して祈るばかりのわが身とは奢る気の試案は潰えすたこらさ今日という今日は叱っておいていい恥じを知れかの難破船もろともに足萎えとわびしがる芽を撫ぜてやるか悶絶にゆだねる虫をこそ…

六四九号(平成九年4月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 信濃の狂歌(一二五)【七、長野地方(五)】 浅岡修一 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十二) 川柳評明和八年万句合輪講(七十二) 【民俗…

三月

川柳手始めの幼籃期のころ、短冊に接したのは 新開地一寸行っても ザックザック* 水府 昭和初め当地の池上喜作から君には似合いだから差し上げると言って貰った。相手は中年、商売に熱心で、傍ら、数寄の風月を友とする温厚なご仁だった。 若いうちから正岡…

三月

老いの一喝風にどこかで連れ添って多士済々霖雨だからと酷使する焦げ付きな口上やがて神妙な構え来て欲しくない独りかなこぼれ酒失せものと正しい時刻との落差尾を隠し慇懃無礼傷つかず言葉が向こうからやって来る頬っぺの飴春が顔出して小さな借りがあるら…

六四八号(平成九年3月号)

題字 斎藤昌三 表紙 蔵書票・カット 丸山太郎 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 明治前期の【時事川柳(二)ー】咄家川柳 武藤禎夫 川柳評明和八年万句合輪講(七十一) 十二篇はいふうやなぎ【き】たる略註(二十一)【二十】 【…