七月

 向日葵が大きくなり、私のせよりも高く見上げる。ひょろひょろと気弱な格好で、どうも私に似て細い。向日葵ばかりの何百と見事な農園と違い孤独を構える姿。
 モロコシがずらりと幾本か勢揃いして可愛い、風が吹くと、ゆらゆらと話し合っているようだ。
 大梅が随分採れ、いろんな漬物にする。お裾分けに知人に伝えたら早速やって来た。大袋にいっぱい入れて重たそう。
 残りが毎日落ちるので、捨てておくのも目障りだから、こそこそと拾い集める。雀あたりがちょいちょいと突ついたらしい跡の痛んだのはそのままに、横角にもう幾つも並んで寂しそう。
 南瓜が這いづり回り我がまま顔をして賑やかだ。水を撒くとき、いい音を立てる。お年寄り様、精々恵み水を与えて下さい、一所懸命大きくなりますよ、ご首尾をごろうじろと言わんばかり。
 猫がこっそり来てあたりを歩きつつ、人間の気配に空とぼけながらすれ違う。どうも大梅を突っくのは雀たちのほかにこの猫の仕業かと思う。
 かなり太い銀杏がたっている。その癖、あの実が生らないので、どういう訳が不思議だ。毎年親類先きから決まって朝顔市直送の鉢物をいただくが、毎日水を惜しみなく掛けてやり、遥々江戸から信州までやって来たのだから、丈夫で咲いて貰うよう、せっせと手入れを怠らない。
 茄子はそろそろ顔出す頃だが、まだあの紺色はじっと我慢の体。一富士、二鷹、三茄子で三幅対の吉夢に数えられる。ところで中国では茄子の夢を見れば試験に落第するので、あまり好きでないらしいとか。
 管茶山の「筆のすさび」に熊が茄子を恐れることが述べられ、茄子を見せて獲った熊の肝は小さいとある。真偽のほどは知らぬが。
  なすび売このこのこのが
    しまひなり  柳多留九
 ヒトヒトヒト、フタフタフタと数えて九ツはコノコノになり、最後の十は黙って入れる八百屋さん。
  駒込は一不二二鷹
    三茄子  柳多留三三
 本郷駒込あたり畑ばかり野菜作りが盛んだった。「駒込茄子」名産。