1957-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽よく夜店などで軽便ネクタイといつて、一々締めずにすぐ間に合ふ針金か何かで工夫したネクタイを売つてゐる。それはちやんとうまく締めてあつて、そのまゝ首の廻りにあてがへばよい。朝寝坊したサラリーマンなんかは、あわてゝ締めるに及ばず、これをズボン…

十二月

低い姿勢だと銭は影落さない ぬるま湯に労資の首がものを言ふ 妥協近き疲れ煙草の輪に手が行く 才女らの酔余の足のしびれけむ 低音歌手物乞ふほどの手がひろがる 貧困の合言葉またはねてきて ハイテイーン親の秘事見し日より勝ち ベレー帽人生の謎連れ込まず…

一八七号

表紙 冬枯 丸山太郎 口絵 祖母山(九州) 武藤完一柳多留に於ける新定型の発生 阿達義雄 【 柳多留五篇の音数律の検討 】 柳多留散策6 伊良子擁一 【 柳多留十篇あたり 】 課題「朝の視野」 小宮山雅登 「路地」 太田いはを選 バレヱと親馬鹿 土田貞夫 石曽…

十一月

▽私は背広を着てネクタイを締めるときは殆どない。ジヤンパーか、夏ならワイシヤツひとつである。靴もめつたに履かないから、底もさう痛んではをらぬけれど、実に旧式のかたであるらしい。東京にゐる甥たちが私の靴を見て「叔父さんの靴は僕たちの生れた頃だ…

十一月

一枚の構図鴉を動かせず 月の兔は見てる鴉居睡り ほろ〱と鴉ゆめみし濡羽色 寺の鐘が救ふ鴉は一点に 壊れたシルクハツトの鴉物臭さ 尾羽枯れ旅は鴉に大きな穹 いじわる婆さんだつた鴉廻り道 鴉は音痴田ンぼにあしが凍てゝ来た 勲章ぶらさげて夜目の鴉向き合ひ…

一八六号

表紙 山の宿 丸山太郎 口絵 落穂拾い 武藤完一柳誌月評 源一白 象 比企蝉人 俳諧の高点句集ということ 綿谷雪 あの頃の私【同人雑筆】 矢幡水鏡 雑詠 大空 石曽根民郎選 合評「身」 小宮山雅登・岩井汗青・三枝昌人 山彦集 同人吟 句会報

十月

▽誌友の方は勿論、本誌を声援してくれる人たちは、本誌が遅刊してゐることの理由をよく諒解していたゞき、それに甘へるやうな立場に置かれ、たゞ〲恐縮の至りと恥ぢ入るばかりである。何とか早く遅刊を取り戻したいとあせつても、思ふやうにならず、ずる〱と…

十月

ふるさとの水わが智恵の底に沁み 墓はいくつも並び夢はひとつづつ 憐れみを乞ひ得てうしろからの月 わらべ唄涸れゆく想ひ支へたり また夢を重ねかの夢消しがてに ほろ酔ひの安けさに来るわがまこと 月に雫あれ告白がとぎれゆく 道はひとすぢ生きの身のたかぶ…

一八五号

表紙 屋根 丸山太郎 口絵 高崎山 武藤完一「柳多留」二篇の問題 岡田甫 柳多留散策5 伊良子良一 【 柳多留六篇の佳句と川柳独立の時期 】 小咄信濃補遺7 武藤禎夫 課題「慕情」 神谷正司選 課題「縫ふ」 山岸実茶選 はつ冬や 正岡容 雑詠 大空 石曽根民郎…

九月

▽頃日、松本市立博物館で「松本の歴史展」が開催されたが、そのとき頼まれて川柳と狂歌に関する本を出陣した。この歴史展では松本の上代から近世に至る文化的な資料が図説的に或いは現存物としていろいろの角度から並べられる。かうして自分の郷土の成り立ち…

九月

労資を置く溝になまぬるく吹き上げ 餌をほしがる腕の太さほそきが乱れ 働く理窟に営む理窟に陽が落ちる 生活権だ経営権だ尻に敷いて 乾いた労資の笑ひにこめるたそがれ 中小企業の首が並ぶとき労働歌 うすい儲けしぼりとる滓走りゆく のろしを上げん気弱さは…

一八四号

表紙 国東半島双子山 武藤完一柳誌月評 源一白 秋の月に関する行事【信濃風土記】 胡桃沢友男 小咄信濃補遺6 武藤禎夫 萩 比企蝉人 深川詩集【 わが東京記 】 正岡容 各地だより 東北=今野空白【福島県の柳界】 東京=伊古田伊太古【近頃の話題】 四国=山…

八月

▽私はもう両親がない。母は昭和二十六年に喪ひ、父は昨年十二月に逝くなつてゐる。長い間自分を育ててくれた両親であつたことを、かうして中年になり沁みて考へるのである。父は八十二歳の高齢だつたから、もの惜しみするやうな気持はないのであるが、やつぱ…

八月

千羽鶴みぢかき別れうべなつて 千羽鶴夢に放たれ健やかに 千羽鶴思ひ澄ませて目を閉じて 千羽鶴西陽に染まりゆくいのち 千羽鶴この道ひとり行くべしと 千羽鶴遠き願ひを舞ひつゞけ 千羽鶴古き格子にある風よ 千羽鶴しみつく過去を折つてゆく 千羽鶴闇に声あ…

一八三号

表紙 建物 丸山太郎 口絵 K氏(エツチング) 武藤完一「柳多留」の編集態度 岡田甫 【 伊良子擁一君に答える 】 小咄信濃補遺5 武藤禎夫 蚊を焼く 比企蝉人 石曽根民郎の肖像1 江端良三 病中病後 正岡容 【みのまわりのはなし】 各地だより 北海道=高村…

七月

▽九州豆本、えぞ豆本とか岩佐東一郎さんの風流豆本など、ごくひつそりと愛書家のなかでもてはやされてゐる。どれも限定版で番号入りである。詩集があるかと思へば奇術の話あり、染紙の和綴、瀟洒なフランス綴、いろ〱意匠を凝らして御目見得する。たのしみで…

七月

身こそあれ静かな月をひとつ置く いそがば廻れ気弱さが笛を吹き よよと泣くふるき芸術流れたり 誰もあるいのちしのばゆ寝にまぎれ 老へざる葦を並ばせ風も過ぐ 山々の黙せるなかの声が来て 俗臭をけなし得ず酔ふたしかさや 星屑のきらめきに似ず人よごれ 夜…

一八二号

表紙 海 丸山太郎 口絵 木口木版二題 武藤完一柳誌月評 源一白 柳多留十篇に於ける七五五調と八四五調 各地だより 東北=田畑伯史【ネムリナガシ】 東京=伊古田伊太古【牧四方さん】 四国=白禿道人【浮世模様】 浪曲むかしむかし 春日清鶴・正岡容 小咄信…

六月

▽未来社から「信濃の民話」といふ本が出た。民話は長い間語り伝へて来た素朴な生活の味がにじみ出ていゐる話である。信濃の民話のなかには、信濃の自然といふものを先づ頭のなかに置かれ、それで特色付けたうるほひが見出されるものが多い。 ▽姨捨山、蛙、狐…

六月

山にふれ合ふ男たり月を動かし ひとつ山を越え生きるべきに遇ひ 山男冷たき水に呼ばれたり 住むことの夢よ或いは山に逃れ モルモツトと人間が背をくらべ近代化 きれいな水爆の言葉のうらを読ませ ビールの泡気弱き鼻ありと知れ 破れ太鼓胸にひゞくことの不思…

一八一号

表紙 浚渫風景 丸山太郎 口絵 高崎山と猿 武藤完一 写真 焼岳の大噴煙 穂苅三寿雄蓮 比企蝉人 小咄信濃補遺3 武藤禎夫 柳多留遅刊と明和事件 大村沙華 柳多留の刊行年次をめぐる問題 各地だより 北海道=佐藤冬児【学生たちの川柳観】 東北=田畑伯史【鮎】…

五月

▽北信濃あたりでこしらへたと思われるみご細工の色紙掛けを事務を執つてゐるうしろの壁に置いてある。四隅に斜に糸があり、それに色紙を差すやうになつている。 ▽毎月一度は季節的な内容を持つた色紙に差し変へる。五月は食満南北さんの画賛川柳で、柳に蝙蝠…

五月

二つのながれ時の流れに拍手する 罪意識せず国論を見ておはし 尖ンがつて来た窓を開けても騒音 真つ赤な太陽に溺れゆくよ闘ひの雫 貧しさといふ剣を磨くそして磨き やは〱と困らせにゆく道を選び 裏切者底の暗さの月をのぞく スパイ起つ盃はいま透きとほり …

一八〇号

表紙 夏近し 丸山太郎 口絵 木口木版 二題 武藤完一 写真 牛つなぎ石 穂苅三寿雄柳誌月評 源一白 各地だより 東京=伊太古【川柳黄金月間 伊古田伊太子】 大阪=葉光【喜寿南北翁の宿替 山本葉光】 四国=白禿道人【中央柳誌の反省を望む】 川柳革新運動の新…

四月

▽放送川柳は各地で盛んなやうである。NHKばかりでなく民間放送でも川柳を採り上げてゐる土地がある。頼もしい。 ▽雑誌のうへでは文字から来る視覚的な作用で効果を挙げるのに対して、放送では聴覚的な作用で誌上とは違つた受取り方を仕向けるものである。…

四月

能面の白さへ負けたがらぬ炎 嘆かひのむかふの水音に呼ばれ 誰か見てゐる安らぎの胸に聞かし ひまはりの凱歌雑草向き〱に 過ぎし日を壁に塗りたくり克てなくて 夢かさね覚えずいぢらしき疲れ 酔へばわが生きのつたなさこそあふれ さらしゆく酔ひぞ子はみな大…

一七九号

表紙 遊園地 丸山太郎 口絵 久住高原 武藤完一 写真 四ツ家の道祖神 穂苅三寿雄民郎作品を辿る 品川陣居 【 毛並篇 】 柳誌月評 源一白 わが愚忙録 正岡容 土左衛門の狂態擬人名 阿達義雄 柳多留の刊行年次その他 伊良子擁一 【 柳多留散策(二) 】 雑詠 大…

三月

▽金子呑風さんの肝入りで昨年十一月廿七日上田市新田の呈蓮寺に花岡百樹さんの句碑が建立される催しがあつた。信州柳壇の大先輩だつただけに意義ある式典で、私も是非馳せ参じたいと思つてゐたが、病床にある老父を気遣ひ祝電を打つて出席は遠慮してしまつた…

三月

事勿れ主義のうまみが拾へた齢 人肌の限りを越えずいぢめつけ 乗じ得る手合ひの底でこたへさせ 一片の煙りうきよと言ひたがる 人生の余白埋めゆくや月と歩み 酒うまく天下小さしとも言はで 小娘の唇を濡らして知り足らず 老残の求めて淡き誓ひする あはれ人…

一七八号

表紙 山近き町 丸山太郎 口絵 名産椎茸 武藤完一 写真 エゾイタチ 穂苅三寿雄白鳥 比企蝉人 課題「草花」 清水米花選 ざんざ節 向山雅重 飴さんの命日 船木夢考 異色ということ(下) 佐藤冬児 【 佐藤青旗氏の作品 】 各地だより 東京=伊太古 【 陽春柳界 …