七月

▽九州豆本、えぞ豆本とか岩佐東一郎さんの風流豆本など、ごくひつそりと愛書家のなかでもてはやされてゐる。どれも限定版で番号入りである。詩集があるかと思へば奇術の話あり、染紙の和綴、瀟洒なフランス綴、いろ〱意匠を凝らして御目見得する。たのしみである。
豆本はその名の通り小さいから書棚のどこかにまぎれこんだが最後、さがし出すのに一苦労が要るので、特に豆本用の箱をあつらへる人もある。硝子絵をはめこんだり、わざ〱そのためにやいた陶器板を入れたりする。私も三つほどこしらへて、このなかにをさめたもろ〱の豆本を大事がつてゐる。
武井武雄さんの出してゐる豆本の会の歴史はなか〱古い。私はその五の「童話帳」から持つてゐるが、これが一から揃へてある人はごく稀れである。もう百を越してなほつゞく。一人一冊確保を建前にしてゐて実に厳重である。いつだつたか、古本屋から武井さんの豆本を買ひ求めた。すると武井さんから手紙が来て、君は既に所持してゐる本だから二冊享有は遠慮したらどうかとやられた。こちらはギヤフンとなり、いさぎよく返本したことを覚えてゐる。そのやうに豆本愛する人はひとつの戒律を持つてをり、大事にする代りにまた読書家としての良識を持たしめられる。
▽今度、神戸の柴田浪子氏から川柳句集「還暦」を戴いた。ローマ字ばかりで、五糎に四糎五の可愛い豆本である。早速豆本の箱のなかでお友達になつた。