1964-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽長野県俳人協会が結成されて二年、総会を兼ねた年刊句集発刊記念句会があるから来賓として来て呉れないかとお知らせがあつた。俳人たちに会うよい機会だと思つて十一月二十九日信州大学文理学部二十二番教室に赴いた。階段式の会場で、定刻十時きつかり大勢…

十二月

雪に願いをかけるやわらかさ目にしるく 齢をいみじくも数え雪降りしきる ひた走るときなく今日を目の前に 雪音もなく去るひとの肩をとらえ 郷土色親を語つて降る雪で わが夢のひとつが潰え雪一面 負け犬のごとかぶる雪許しつゝ 雪はかなく消える果て民話拾わ…

二六二号(昭和三十九年12月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 野人蕪村の面目 岩本具里院 新川柳の黎明期 奥津啓一郎 安永中期柳壇の異変と狂態吟の出現 阿達義雄 課題「極楽」 小松耕吉 柳多留初篇輪講(二五) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集 所典夫 課題「明日」 寺沢正…

十一月

▽川柳の友達もあれば飲み友達もある。膝つき合わせ、親身になつて相談に乗る友達もある。友達というものもいくつか種類がありそうだ。いたいけな幼稚園も一緒、小学校と中学校も一緒、そんなのを竹馬の友というのだろう。 ▽その一人に内山一也君がある。母校…

十一月

群衆が一人すましでかもし出す ブルトーザーつぶやく声を呑みたがり わたり合う腕かいくぐり巣にいそぐ 能面の静かに時をうつすかぎり 球は千金の重みで親がくわえてる 起重機に吊られ男は度胸だよ 冬の蟻はひしめく声を揃えたり わが殻を好まぬ思想が動き出…

二六一号(昭和三十九年11月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 仮面の宿 佐藤冬児 【―良三・洋洋の新子論と共に―】 柳多留初篇輪講(二四) 「川柳しなの」古川柳関係記事掲載目録(六) 雑詠 大空 石曽根民郎選 鴨平の想い出 東野大八 三代豊国論(九) 課題「税金」 下畑辰二郎選 句会報

十月

▽塩尻駅と小野駅との間に東塩尻駅がある。この駅は急行は勿論、普通電車でもあまり停まらない。おや、こんな駅があつたかと思うほど小さい。本線から少しそれて入るところが駅で、その頃、上りや下りの急行に道を譲る恰好になる。スピードを出して走つてゆく…

十月

タクト怒りをこらえて落葉目にある 研いだ言葉に黄菊はいろを濃く 坂いくつ人生きるとき数えない 川風に散らさず聞かしたい嘘 民情を尽さず消えてゆく車 触れ合つた真実夢を描きゆく 男ありきこころ傷つく日の酒で 道はそこで切れ思い出を連れて来た 肌のそ…

二六〇号(昭和三十九年10月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 安永調の川柳点 安達義雄 柳多留初篇輪講(二三) 課題「収入」 上条義郎選 「流し目」 三枝昌人選 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集 小松耕吉 三代豊国論(八) 尾崎久弥 句会報

九月

▽銀行でお客様サービスの向日葵の種子をくれた。小さい袋に入つて。振るとカサコソ音がする。何とか大きくして、夏の真盛りを太陽に向う大輪にまで育てたいと思い、手頃な陽の当る場所にまず種子を蒔いた。 ▽初めはいたわるように水を少しずつそそいで、芽の…

九月

聖火リレー幻影遠く尾を引くか 五輪マーク伝統の名のからみ合い 五輪ブームの髭を生やし羽を伸ばし オリンピツク戦火を拭いたここの生命 オリンピツク近し台風今日は 歩みよる微笑は賭けたかも知れぬ 気弱さをたたくどつちも秋の風 道の正しさに暮れなずむ身…

二五九号(昭和三十九年9月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 常識作家の日記 片柳哲郎 三代豊国論(七) 尾崎久弥 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 同人雑筆/錯覚の上に立つ 窪田正寿 柳多留初篇輪講(二二) 句会報

七・八月号

▽うちの子供が私とちがつた事業を始めた。親子共稼ぎである。若いうちは何でもやらせてみるがいいと、親の仕事を手伝わない愚痴を言わさずに、他人は他人らしく私を激励してくれる。いや子供を激励している肚かも知れない。朝は早くからせつせと働きに出掛け…

七・八月

晩酌へ重荷ともせぬ顔をして 月明り傷つきやすい眉と見る 忙しいからだそれでも臥せてやる よこたわる身のあじけなや遠き日々 抱くすべを忘れこよなき蚊帳のなか 齢を知ろうと思うかな妻も私も 人の不倖せに涙を落とし夏の盛り 水を呑む安けさかゝる日もあり…

二五八号(昭和三十九年7・8月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 芸術と通俗の谷間 福島春汀 【萩原洋灯作品にふれて】 下駄の音 田畑伯史 三代豊国論(六) 尾崎久弥 課題「のぞく」 窪田正寿選 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 同人雑筆/むかしばなし 土田貞夫 柳多留初篇輪講(二…

六月

▽私は毎朝、三里の灸を据えている。岩井汗青君が仲間の健康を慮って、句会が済んでからみんなに下してくれたとき、私もその御相伴にあずかつたのである。私はお灸については経験があり、病気にならぬ前に三里の灸を据えることはいい療法だと思つているので、…

六月

ちよこなんと齢の姿を浮き彫りに 体験で生かせない齢抱きかゝえ 肌の闘いに齢は疲れを呉れて 馬齢こそ凡夫の宝めしをくらう 捨てた故郷をいまさら古城もしやちこばり 黙つてゝ齢を当てひとさびしがる 齢をあわれがる夕涼み風のぞく 別れの挨拶がいつも出来る…

二五七号(昭和三十九年6月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 柳多留初篇輪講(二〇) 同人雑筆/やまいこうもう 所典夫 炎天のつぶやき【―江端良三さんへ】 時実新子 ほったる・やまぶし 向山雅重 信濃のツバキ 横内斎 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 下畑辰二郎 …

五月

▽五月句会は長野県川柳大会を控えているので、一週間繰上げて九日に開催した。一七音律で大いに闘おうという意欲をかりたてて人選が例によつて顔を並べてくれる。薫風こよなく愛すべき夜である。 あまり若い頃はいない。これは全国を通じてのことらしい。み…

五月

視野にぶく糧の重さが押して来た 遠き日や人をなだめて流れやまず あわれ地に伏してけものの夢あれや 憩い持つおんなの眉の細きとか あらそつてみにくき赤い舌は垂れ 遍歴の肌ならず見よ月動く 生きてこの寓話みじかく雨降らす 祈りにも似たり静かな雲をさが…

二五六号(昭和三十九年5月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 メンドリの冒険旅行―新子の世界― 江端良三 明和調の川柳点 阿達義雄 三代豊国論(四) 尾崎久弥 課題「年輪」 岩井汗青選 同人随筆/佳き日 山岸きよし 課題「捨て身」 荒木白夢選 課題「青年」 一ノ瀬俊一選 雑詠 大空 石曽…

四月

▽座敷から見えるところに小さな庭がある。裏へ廻る通路があるので横に長い庭で、四季折々の花が咲くと言いたいところだが、そんな丹精なものではない。主人が主人なだけに物臭な、まるで無精髭を生やした見たいな殺風景な庭であるが、陽は当る。 ▽朝起きると…

四月

明日を持つ夜の挨拶か利く酒で 人のこゝろを読まれ書庫に梅雨めく 流れひそかに道をゆく男の肚 人は夢をこそまぼろしが立ちはだかり 悔いの夜をひそめいて春のいらだち 道はひとすじ善意の髭も白毛すこし 多数の声とぶつかり弱者を貰い なが〲と仰す真昼策あ…

二五五号(昭和三十九年4月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 浅草海苔(川柳江戸名物志(6)) 花咲一男 課題「足袋」 武田光司選 三代豊国(三) 尾崎久弥 柳多留初篇輪講(一八) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 森山静園 同人随筆/邂逅 三枝昌人 課題「福耳…

三月

▽わが愛犬は柔順である。朝の用を足したあと、鎖をじやらつかせるだけで耳にその音を読み、首うなだれて身をまかすのである。鎖は彼女にとつて桎梏の響きを呼ぶのであろうが、それが生涯によこたわる宿命と観じてもいるのである。囚われの身を、既に生れたそ…

三月

長女嫁く 三月二十一日 手離す夢をいまぞ知る遠きつぶやき そゝくさと旅立つ子らは山と別れ 流れた齢を数えず嫁くはよしとす 祝福をあつめくれないの色を想う ひとみな倖せをいう涙ぐむか あゝ海に描く新妻となる日を生むよ どつかと坐り子がいない安堵のお…

二五四号(昭和三十九年3月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 柳多留初篇輪講(一七) バツカス昇天 松本芳味 【―嗚呼、勝次郎と伊太古よ―】 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 寺沢正光 三代豊国論(二) 尾崎久弥 句会報

二月

▽信州ほど季節の挨拶が身についているところはないと思うくらい四囲の風物はきびしい。まことに綺麗に山々が雪をいただき、晴れあがり澄みとおつた蒼空がその広さを誇るとき、よくぞ信州にうまれてきたものだとつぶやかせるのは若い頃のこと。あたたかいぬく…

二月

夜の梅にかくれんとする気を叱り そゝくさと嫁く日も近き日の習い 淡雪になすべき刻が静けかり 遠い王子様に真珠の星をあげたがる 軽き悔いの肌のありかを知る齢で 謎を解くからだは闇をくすぐらし むなしさを握る十字架たゞ大きく かゞり火に逆臣の名を敢え…

二五三号(昭和三十九年2月号)

題字・斎藤昌三 表紙・丸山太郎 柳誌月評 橘祐 川柳信濃国継足 市橋鐸 同人雑筆 好き嫌い 岩井汗青 三代豊国論(一) 尾崎久弥 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 星華集(自選) 窪田正寿 柳多留初篇輪講(一六) 句会報