1991-01-01から1年間の記事一覧

十二月

うちの「百趣」の店にアルバイトをやっている女子大学生の妹は十二月二十四日生まれだという。忠臣蔵の討入りの壮挙で有名だから誰でも気軽に覚えていて、誕生日が来ると、きまったようにおめでとうと声を掛けられるそうだ。にこにこした顔が浮んで来る。 や…

十二月

あやまちと悔いの同居で漕ぎ出そう足と遊ぶ電気行火の夢芝居その痛みほんの昼寝の容れものに損な顔つき渋柿が黙って黙って言葉より生まれる性根たり得るや脆きもの脆きに徹しついばめる打ち込める仕事一陣の根が深いこれも人生真実なもの横たえて逝く年と馬…

五八五号(平成三年12月号)

題字 斎藤昌三 表紙 勢い 石曽根隆実 ゾルゲをめぐる三人の男 東野大八 信濃の狂歌(八四)【四、飯田・伊那・諏訪地方(15)】 浅岡修一 柳多留二十九篇輪講(五十六) 川柳評明和八年万句合輪講(八)【本文では(七)の誤り】 雑詠 大空 石曽根民郎選 山…

十一月

松本市老人クラブ川柳まつもとの会報は、この十一月号で百六十五号に達する。創刊号当時からの人がいて心強い。誘われて中途で入会した人たちと一緒になり、毎月中旬の日曜日午前九時ころ集まって来る。 福祉会館とも言えるおぼけ荘の大広場、山辺温泉の地籍…

十一月

老いを病む試練の果てのいみじくもいい歳を得て暮れなずむ思い待つなつかしき人来たり去り何を生むもろもろの隅っこそれは私なのだ有終をつなぐに鈍く藪の中あめ玉がほんの救いの寝入りばなたっぷりとみそぎの水のひとりすましこの卑小なるうたにこそわれを…

五八四号(平成三年11月号)

題字 斎藤昌三 表紙 連想 石曽根隆実 古今前句集と最破禮(二) 宮田正道 柳多留二十九篇輪講(五十五) 信濃の狂歌(八三)【四、飯田・伊那・諏訪地方(14)】 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(七) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「生き…

十月

まだ暑中休暇だったが、予定の講義が九月二十六日と決まっていたので、学生たちには特に繰り合わせて集って貰った。でも就職内定の都合があり、出身地での研修があるため聴講出来なかった者もいたが。 先ず金子呑風を挙げ、そのあと金井有為郎、小宮山雅登の…

十月

望みあやす何はともあれ日傾きべからずと変体仮名のしかめ面身の程のかばかりの花もたれつつ濡れ行かば心打ちけん土の叫び若き死の弟覚めしあたらいくとせ朝露に額ずく墓の声あらば大新聞ヌードが渇く占有度 ひとり弔う 友ぞいま偲ぶ別れのあとやさき 学友出…

五八三号(平成三年10月号)

題字 斎藤昌三 表紙 髪 石曽根隆実 古今前句集と最破禮(一) 宮田正信 柳多留二十九篇輪講(五十四) 川柳評明和八年万句合輪講(六) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「左右」 所典夫選 「識る」 寺沢なおみ選 九月句会【宿題「赤い」飯沼忠選…

九月

私たち家族は犬が好きなせいかよく飼った。呉れ手をひょいっと見つけるのも巧かった。 父の友人でダックスフントと言う、ほかの犬と違い、脚の短い変種が、子を生んだからと貰った。なるほど背が低い。珍しがられた。ところが近所に篆刻家が住んでいて、これ…

九月

名にし負うかく殊更な素っ首よ喚問に聴取ひたひた揺れ動く過ちを正すに鈍きピエロたち望みある顔して花も人も足るか姉は米寿愉しかるべき日が続こ 江端良三さん八月二十五日急逝 忘れじな晩夏の雲の重たき訃 信大出講始まる 原爆の句を拉し念ずるがごと生き…

五八二号(平成三年9月号)

題字 斎藤昌三 表紙 目 石曽根隆実 酒器三題 (三)盃 内山一也 柳多留二十九篇輪講(五十三) 信濃の狂歌(八二)【四、飯田・伊那・諏訪地方(13)】 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(五) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「敗れる」 赤木…

八月

どの新聞も八十歳を強調する意味合いがあった。それはたしかなことだったから、何の苦にもならず、八十をひっさげで挑む小天下の句が出来ていた。 当日は信越放送、テレビ信州の取材が待っており、また翌日も長野放送が取りかこみ、あとで放送を観たが、やっ…

八月

唸らせてばかり世の末足り得るやぷんぷんと金を匂わせ定めなき祈らばやこの世ながらの明るさも過去のいくつか呼び覚ますひびき持つ夜更け句が生まれ小さき欠伸惜敗にひたふるながらも葡萄熟れ入歯はずし横顔眠れ老い豊か K印刷所、八十八周年を祝う その仕…

五八一号(平成三年8月号)

題字 斎藤昌三 表紙 対比 石曽根隆実 酒器三題 (二)徳利 内山一也 柳多留二十九篇輪講(五十二) 信濃の狂歌(八一)【四、飯田・伊那・諏訪地方(12)】 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(四) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「沼」 藤本…

七月

これを書いている二十二日の明日から、信州大学非常勤講師として出演することになる。一応はテーマをまとめたが、一時間半を一講として、一日三講を仰付かったのでやや慎重気味である。 冒頭から言い訳めいた老齢の溜息を聞かそうとは思わず、信大の前身のひ…

七月

小さきものの夢ありやつづかせよたまゆらのいのちに気付く目覚めしてそれが何だったかという逃げ道でいのちみじかしと心こめ唱いし日トンネルを抜けたばかりの気負いとも繁栄へ旧町名が胸に棲むビルとビルきちんと残る蔵の意地投手小さし青春の星いま散らす…

五八〇号(平成三年7月号)

題字 斎藤昌三 表紙 走る 石曽根隆実 酒器三題 (一)酒樽 内山一也 柳多留二十九篇輪講(五十一) 川柳評明和八年合輪講(三) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「抜け道」 牛越鶴甲選 「迫る」 猪爪公二選 第三回合同句会【川柳しなの、川柳まつ…

六月

自分で集めた本とか、先方から送ってくれた本とか、だんだん溜まって来て、部屋中に積み込んだまま、家族の者に厄介ものにされるようになると、誰でも悲鳴を挙げたくなる。 交換誌で友人に頒けてやったりしても、毎月どしどし増えてくることは間違いない。古…

六月

釣る大魚だから天真連れ添って名乗り出る遅速の差ともからんでた論外と汐どきを見て大人たちのるかそるか見事なうたを聞かせたく小さい旅おのれのがしてみたくなる背水の陣の譬えと齢が合う延命の越しかたなぞる自然体盛衰の女ひとりの後ろつき千載一隅日の…

五七九号(平成三年6月号)

題字 斎藤昌三 「道中膝栗毛」―滑稽文学へのいざない 浅岡修一 柳多留二十九篇輪講(五十) 信濃の狂歌(八十)【四、飯田・伊那・諏訪地方(11) 浅岡修一】 川柳評明和八年万句合輪講(二) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「未来」 手塚映城選…

五月

いつもきらきら光っている暮らしからでなく、せかせかしていると言った方が正直そうだ。自分をいつわれないで、機転の回し様も下手、何やら億劫がってるみたい、それも誤魔化しにも見える。 だが逃げ出しはしない。未練がましく、過ぎ去った日が妙に思い出さ…

五月

狛犬と会う朝だったわが挿話深爪の遠いあの日が薄くなる低唱のかく虐げてゆく雌伏愚の道がほしくていつも独り言蛇小へびぐんぐん伸びたがってるぞまたごろり億をいたぶるよごれた手災害の遥かその名と結び合う志半ばをねらう目白押し若き徒の焼身国を灼くが…

五七八号(平成三年5月号)

題字 斎藤昌三 表紙 会う 石曽根隆実 蔵 多田光 柳多留二十九篇輪講(四十九) 川柳評明和八年万句合輪講(一) 本誌主要記事摘録(十七) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 句評 街角の句 丸山山彦 課題「速い」 土田貞夫選 「追想」 丸山山彦選 四月…

四月

孫娘が在学中、夏期休暇を利用して学校の斡旋で、米国シャトル市の或る家庭に短期留学をしたことがあり、その翌年もお邪魔したが、既知の妹夫妻が日本に遥々やって来た。 松本駅近くのホテルで一泊したお二人をお連れして、家族一同で歓迎となった。 座敷の…

四月

もう済んだ話でお辞儀して逃げぬ聞き捨てのほかなき些事のちくり刺す善き友を得てしがらみに弾じたく短気は損気如才なく鐘が鳴り挽回のてだてあばら骨は見せようこなれゆく腹の動きを繰る夜半結ばれしえにし語りに落ちてゆく角とれて老いの試練がどっこいし…

五七七号(平成三年4月号)山澤英雄氏追悼

題字 斎藤昌三 表紙 祈り 石曽根隆実 【写真「在りし日の山澤英雄氏」】 【山澤英雄氏追悼】 川柳評万句合 長谷川強 碌々庵先生 中西賢治 元柳原先生 佐藤要人 山澤英雄先生の思い出 石川一郎 中陰―山澤先生を偲んで 八木敬一 碌々山澤英雄先生を悼む 粕谷宏…

三月

一度も行ったことのない遠いところからも、立派な川柳雑誌をいただく。こちらもお返しのつもりで田舎じみた、少しはローカル味を添えたかなと思われそうな雑誌を送っている。見ぬ土地だけにお互い未知への誘いにかられるような気がする。 本命は弘く川柳を伝…

三月

寝息安けく睦まじや生き合える老いの稼ぎのつつましく淡かれや箸使いその明るさを続けよう辻褄がいい塩梅に煮えてきた敵さまに男の裸だけ見せる実力の組んだ脚から筋を書く生き残るべく愚かさを外らさない水っぽくビールが逃げてゆく負い目ぐるり山すがた抱…

五七六号(平成三年3月号)

題字 斎藤昌三 表紙 いいな 石曽根隆実 Silent Night 節秀夫 柳多留二十九篇輪講(四十八) 信濃の狂歌(七十九)【四、飯田・伊那・諏訪地方(10)】 浅岡修一 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 句評 雪しんしん 丸山山彦 課題「向く」 一ノ瀬春雄選 …