九月

 私たち家族は犬が好きなせいかよく飼った。呉れ手をひょいっと見つけるのも巧かった。
 父の友人でダックスフントと言う、ほかの犬と違い、脚の短い変種が、子を生んだからと貰った。なるほど背が低い。珍しがられた。ところが近所に篆刻家が住んでいて、これが滅法な犬好き。座敷放し飼いの犬が十数匹うろちょろ。そして手馴づけが上手で、私のところの犬は何時の間にか誘われ、家出してしまった。(犬は三日飼えば恩を忘れぬ)の俚諺にそむいたわけだ。
 毎朝配達してくれる牛乳屋さんが、とてもやさしそうな犬だから飼って見ないか、雌だから可愛いよとすすめられて飼うことにしたが、時期になると、おとこどもが乱入してうるさい。撃退法として名案と自負したものも、次ぎ次ぎに見破られ、彼等の激情は時による当然の発露とうべなって、その行為を不問に付する事にした。そして出産をめでたがったものである。
 いくつも飼ううち、いたって従順なのもあれば、言うことを聞かず、あまつさえ恫喝気味の性癖で手こずらすのも出た。近所で噛みつかれたという苦情があり、とうとう思い切って、乱暴な種類を請け入れる人のあることを知り、そこへ連れて行き矯正を頼んだ。
 なかに不憫にも目のあたりで輪禍に遭うのがあり、安楽死のと一緒に土葬してやった。私の家の墓域の一隅に彼等の合祀浄土がある。
 このごろテレビ朝日で視た「素敵にドキュメント」はペットブームの種々相や、高級な、珍しい紹介に始まり、捨て犬や捨て猫の現状を伝え、また障害を負った犬や猫のために車椅子を作る奇特な人を紹介。これを斡旋してもらった女性の方が、この車椅子で走ってくれた子猫に涙を出して喜んだのには、こちらも胸が熱くなった。
 私の選をしている新聞柳壇で
  ピイヒョロと名前
    貰っている子猫 林令子
の批評のお礼だと言って、その子猫のスナップ写真をいただいた。
 それが縁は異なもの、味なもので、孫娘の隆実と同級生のおばあさんだったわけ。ピイピイ啼いていたので、ピイヒョロが愛称名。