1982-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽信州は夏涼しいかわりに冬寒いから、凌ぎよい頃転勤した人で十二月に入ると身にこたえるが、それも慣れてしまえばさこそでもないらしい。澄んだ大地、綺麗な流れ、キラリっと光る星、迫って来る思いはおのずと湧く。 ▽私も伜も眼鏡をかけ、男の孫もつい最近…

十二月

打ち明けるまでなく狐とのわたり合い 支持率に照らし布陣を怠らず 這い上がる神の手ならぬ手を添える 喪の便り年の瀬そこだけが乾く 句を尋ね余生の翳はおのずから 失いしものを求めて焦げに逢う ひらめきを向こうでも持つ歩み寄り そぎおとす齢のみちびきか…

四七七号(昭和五十七年12月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎金井有為郎さんのこと 石川一郎 (1) 川柳佐渡国(一)【川柳越後志付録】 西原亮 (6) 佐渡国概説 札幌のエリートのグループ 丸山太郎【画も】 (10) 川柳人過去帳(二十一) 奥津啓一朗 (13) …

十一月

▽枯れ果てた落ち葉が歩道にこぼれるようになると、朝の掃除の仕甲斐が出てくる。かさっと音がし、とても軽いが、その身の早さが敏感だ。塵取りに余るほど、箒で押さえながら持ってゆくとき自動車でも通り過ぎると、その風にあほられてしまう。 ▽いつもの十一…

十一月

決着を匂わす転び出た言葉 青りんご素直さだけに眺められ うす味におさえた感じ置いてゆく おしはかるまでに小さくなり切って さわやかにやがて極めゆく輪廻 さよならの余韻いまから聞かすすべ にぶい艶救い難きをはがゆがる 冷めた目でみんな別れに立ち上が…

四七六号(昭和五十七年11月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎雪月花(せつげっか) 江端良三 (1) ―「古川柳信濃めぐり」から― 川柳越後志(四十五) 西原亮 (7) 【四、下越篇[北蒲原郡中条町]】 勇婦板前御前 ザ・グラス、スタジオ、イン・オタル 丸山太郎【…

十月

▽どの商店でも同じというわけにはいかないが、一般に水曜日を公休としている。町内で敬老の日に年寄りだけの慰安の集りは、いつの間にか水曜日に近い日を選ぶことにし、ことしもこれにならった。 ▽遠出はせずに近いところというわけで、向こうからバスが迎え…

十月

幕合いに呼ぶ人の名を思いやり 落語家の江戸の名残りを抱いている たたかいのもう来ない日を眠るなり 残りものやや衰えを見ているか 尾羽打ち枯れしおもいのもたれよう にせものとほど遠し小さく生ま身 古池に帰郷ここらで月映す 小書斎の扁額ややに広がる …

四七五号(昭和五十七年10月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎「住めばわが町」より 多田光 (1) 小樽運河 丸山太郎【画も】 (6) 川柳越後志(四十四) 西原亮 (9) 【四、下越篇[東蒲原郡三川村]】 平維茂と将軍杉 川柳人過去帳(十九) 奥津啓一朗 (13)…

九月

▽桃太郎の発端の、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に。しゃがんで洗おうとしたはずみに思わず何とおなら。「おじいさんはさぞ草刈ろう」 ▽書物として現れた桃太郎は享保年代のものが最も古いとされ、降って明治にいたると数多くの子供向き、…

九月

にせものとほど遠く小さくもなま身 逆縁の土を濡らしに雨本気 夜盗挙げて昼寝重たく闇が甘い 虫の音の休らいながら問いもする 遠い過去がまっすぐに来て手を握り ふらふらと寝にゆくほんとうの足だ 長い鉛筆がころがっていて枕する 音をひそめ虫は痛みがわか…

四七四号(昭和五十七年9月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎湯舟について 鈴木倉之助 (1) 「清見寺膏薬」について 追記(清見寺膏薬) 川柳越後志(四十三) 西原亮 (5) 【四、下越篇[新発田市菅谷]】 鎌倉将軍と菅谷不動堂 川柳人過去帳(十八) 奥津啓一朗…

八月

▽孫たちがもう少し前まではよくテレビの(まんが日本昔ばなし)を観た。この頃、伜が視聴率を制限したので、ついついこれを割愛している。予告に「雷様の病気」とあったが、いい大人がひとりで娯しむわけにゆかず、はなしの結末はどうなったか判明しない。 ▽…

八月

机辺拭くわが名小さくつぶやく さはあれど避暑地にのがれ襟を正し 物憂くも古き語りのもたれ合い 凍傷の山の記憶の深く重く 冷静を整う月がのっと出た ハタタコに洗われし身ののがれ得ず 差し換えの活字が思い鞭となる さらでだに深き痛みを問い返し あやま…

四七三号(昭和五十七年8月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎からあい 田畑伯史 (1) 川柳越後志(四十二) 西原亮 (5) 【四、下越篇[新潟市]】 湊の仇花 八百八後家 川柳人過去帳(十七) 奥津啓一朗 (10) 雑詠「大空」 石曽根民郎選 (14) 柳多留二十…

七月

▼心待ちにしていて、昨夜は眠れなかったなどとは言わない。みんな約束した場所に来合わせ、朝の挨拶が始まる。自動車が二台、何となくそれぞれに分乗して出掛ける。快晴、北アルプスは毅然として前方にある。 ▼川柳を共にする老人たちのグループ。毎月一回の…

七月

玩具のピストル自分のために購う 時効の手筈に動き出す蝸牛 鉛筆が削られてゆく貧乏ゆすり 人生の裏がそうさせ血糊ふく 重からぬつづらを撫ぜて落ち付くよ 署名簿に甲斐止めたく吹き溜まり 縄ばしごするする消えるまでの問い 悟りとは遠きや暮らし前にする …

四七二号(昭和五十七年7月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎「住めばわが町」覚え書 石川一郎 (1) 川柳越後志(四十一) 西原亮 (6) 【四、下越篇[新発田町]】 仇討男 堀部安兵衛 川柳人過去帳(十六) 奥津啓一朗 (14) 雑詠「大空」 石曽根民郎選 (1…

六月

▽水泳ぎといっても、その川は流れが早いので、とても泳げるものではなかった。小学校の頃、町の中を流れる田川に遊びに行った。友達と一しょに堤を少し降りたところに砂場があり、少しくぼんでばかり飛び込んだら、ズルズルと足をすべらせて底深く溺れそうに…

六月

ひとりして小声おのれにほかならず 軒下の陰にこもりしもののかず 束の間ののがすに馴れし身の覚え 濡れ燕あるま【ま】ながら運不運 折返す近道ここの雨に打たれ でかめろんバラ色のなかすでに枯れ 男果つ腹巻きはまだものを言う 看取る手の互いにいつかゆれ…

四七一号(昭和五十七年6月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎第四「夜明け前」と雑俳 多田光 (1) ぬくもりのあかし 江端良三 (7) 石曽根民郎著まつもと歳時記 「住めばわが町」読後感 川柳越後志(四十) 西原亮 (12) 【四、下越篇[西蒲原郡月湯村]】 笛…

五月

▽今でもそうだが、小学校で新学期を迎えて間もなく、身体検査が一斉に行われるたびに、いやだなと思った。男女の区分けなく一緒だからという記憶はない。恐らくあの頃も別々だったろう。 ▽裸になって恥ずかしい、そんな殊勝な気持ちを通り越して、自分の身体…

五月

酔いのうたた寝宥されし足の裏 かばう瞳と合う気を叱りもとのまま 落ち椿何やら老いにからまって 枯れすすきやがて落ち着くものならば どんな言葉を拾い出す老眼鏡 紛争へ近所の隠居説を為す 垂れ幕のシーン自存を盾とする 行革の思案にあまる向こう側 友の…

四七〇号(昭和五十七年5月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎川柳よもやま帖 東野大八 (1) 旅に出るこころ 美濃部貞 (4) 川柳越後志(三十九) 西原亮 (5) 【四】下越篇【西蒲原郡巻町角田】 題目の不思議 日蓮上人 狂歌探訪余話(四) 浅岡修一 (9) 望月…

四月

▽自動車がまだ道路を走らないで交通事情が誠に緩慢の頃だった。街路に出て子供たちは鬼ゴッコも縄跳びも駈けっこも出来る、今から考えると夢のような時代、それは大正期、小学校に通っていたが、時期になると年に二回か三回やって来る楽隊があった。 ▽大人で…

四月

言いわけのそれなりにやや遠回し 長かったような振りしてまだ覚めず てれ隠しなるほど髭をたくわえて ほどほどの話に落ちてかいくぐり ゆれうごく心のひだを誰に見せ お見通しぬからぬ顔を雨が打つ すんなりと収まるまでの行きがかり ずるずると堕ちてく気位…

四六九号(昭和五十七年4月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎小説家の”文学的”理解力 小池章太郎 (1) 書評―小島政二郎著「私の好きな川柳」 川柳越後志(三十八) 西原亮 (5) 四、下越篇【西蒲原郡巻町竹野町】 悲嘆の美人 菖蒲の前 折にふれて味わう本 八坂俊…

三月

▽朝起きたとき、どうもご機嫌がわるく、むずがってばかりいたのだが、医者に診て貰ったら阿多福風とわかり、幼稚園を休むことにした。聞きわけがよかったり、わるかったりで、始めのうちは水枕で冷やし、冷やすのがいやになると、ころがしてみたりして四、五…

三月

入歯はずすその底にある夜を持つ 真直ぐに落ちてく闇のぬくもり 満ちて砕けることわりの安けさよ 物の怪のにくくもしるき鬨の声 談合と馴れ合いの字がお辞儀する こと金に及んでからむ身の証し 表には出ぬやりくりのたかが知れ 申告期トントン拍子相手待ち …

四六八号(昭和五十七年3月号)

題字・斎藤昌三 表紙・石曽根正勝 カット・丸山太郎麦作で払いな、候 江端良三 (1) わがうちなる故郷 松林尚志 (6) ―石曽根民郎著「住めばわが町・まつもと歳時記」に寄せて 川柳越後志(三十七) 西原亮 (9) 四、下越篇【西蒲原郡弥彦村矢作】 玄…