九月

▽桃太郎の発端の、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に。しゃがんで洗おうとしたはずみに思わず何とおなら。「おじいさんはさぞ草刈ろう」
▽書物として現れた桃太郎は享保年代のものが最も古いとされ、降って明治にいたると数多くの子供向き、大人向きが出揃った。
▽チリメン本というのは、その名の通り小さなしわをよせた、とても軽やかな本。明治十八年に出たものが嚆矢とのこと。遅れて二十年刊の日本昔噺「玉の井」を持っているが、和紙のせいか手彩色とも思われる挿画。そしてこの種のチリメン本は殆んどが英訳、独訳本だ。明治三十年刊石塚書店の「花咲爺」「松山鏡」「文福茶釜」は前記の「玉の井」長谷川書店ものより小型。相憎、「桃太郎」が私は欠ける。
▽お伽話といえば巌谷小波を思い出す。明治三十六年刊博文館の日本昔噺第一編「桃太郎」は小波著、リツデル女史英訳で対訳本。菊判、藻富永洗画。
▽ブームに乗ると桃太郎後日譚が出てくる。そして京の藁兵衛「滑稽五大噺」とか田村西男「芸者五大噺」といった滑稽本も台頭する。五大噺の桃太郎、かちかち山、花咲爺、舌切雀、猿蟹合戦が花柳界を背景としてうならす。
▽日本家から桃太郎の名でお披露目してからの売れっ妓、男嫌いでそれが評判の引き手あまた。年期を終えてしばらく看板借りだったが、日本一の看板を出して、一本立ち。呉服商の懇親会の席上でふとしたきっかけの岡惚れ。
▽先方がなびかぬのに業をにやし鬼ヶ島ならぬ向島の別荘へ押しかける。蔵前のお団子を折に詰めて雷門前へ来ると「桃太郎さんどこへお出で」「向島へ浮気に行きます」「一つ下さい。お供する」犬丸という太鼓持、芸者ばらがきの猿次、ケンの上手な野太鼓の雉子八と一しょに派手な乱入。驚く若旦那をうまく仕止めてめでたし。
武井武雄豆本第七「本朝昔噺」の最先は桃太郎。関野準一郎さん摺捺。昭和十六年刊、その頃準一郎さんがこしらえて下さったエキスリブリスを貼る。積荷を運ぶ帆掛け船、向こうに伸び上がった富士山。「民郎蔵書」のエッチング