1986-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▼まず夜中に尿意を催すことは殆んどなかった。人に言うとそれは結構なことだ、わずらわしくなくぐっすり眠れて、私みたいに始終トイレに夜中起きをせねばならない身にとって羨ましいことだとけなるがられたが、家の者は違う。一度も行かないなんて却って身体…

十二月

松本のからだをゴッシゴッシと洗う 嗜みの髭がきっちり発車する お神火よ馴染みの顔を待つ本気 行き過ぎと蛮勇曝す面の皮 象徴の現実に化しゆく薄毛 増税と減税の間にかぶる泥 稚な顔そのままの訃を重くする 根果ててないない尽くし辿り着き 苦しむか楽かぽ…

五二五号(昭和六十一年12月号)

題字 斎藤昌三 表紙 泣く子はいないか 石曽根隆実 カット 丸山太郎随想六題(一) 多田光 (1) 俳句第二芸術再考(二) 田畑伯史 (6) 信濃の狂歌(三十) 浅岡修一 (9) (ソ)八幡地区 【134〜142 井出曽代人、鳩樹軒三枝、他】 柳多留廿七篇…

十一月

▼いい齢をして電話応対でもあるまいと思うことがときどきあるが朝起きて散歩して、朝飯をいただいたあと、相も変わらずに事務所の机にしがみついている。よそから見ると執着そのものようなていたらく。 ▼もういい加減にしたらと、家の者に言われたことが一度…

十一月

ピリオドの打ち方神の手の震え 結んで開いて大国の身づくろい 空なるや無なるや未だ遊ばせず 老い生きてさらに横とう枷と組む 手も働き足も働き終えた枕 ひらめきはにぶく枯淡のまばたきよ 誰もいないあたりにいない休らうべき ほんとうの旅立ち道を覚えたか…

五二四号(昭和六十一年11月号)

題字 斎藤昌三 表紙 晴着嬉しや 石曽根隆実 カット 丸山太郎草田男と三太郎 江端良三 (1) 信濃の狂歌(二十九) 浅岡修一 (8) (ス)〜(セ) 抜井、中居地区 【120〜133 森井亭水元、森松亭俊正、他】 柳多留廿七篇輪講(六十一) (15) 雑…

十月

▼ずっと空高く敵機らしいものが爆音も遠く聞こえてくる程度で、住民はこともなげに仰ぎ見ていたに過ぎない。つゆさら爆弾投下の危険を慮る気はせずに興味深げだった。 ▼商店は軒を並べてひっそり、売るものも控え目で、戸で仕切って入口を狭くし、何か別なも…

十月

礼節は秋のいましめのみならず 威信地に堕つ仲間との飯を食う 内外に国際感覚あぶり出し 圧勝の空気枕がふと抜ける すすき穂のゆれ何げなく同じたり 曲り角われを見つけた振りをする 変わらない遊戯子供よ大人だって どうして楽になったかと眼を開ける 多数…

五二三号(昭和六十一年10月号)

題字 斎藤昌三 表紙 秋みつけた 石曽根隆実 カット 丸山太郎あの頃スケッチ 節秀夫 (1) 狂歌探訪余話(五) 浅岡修一 (5) 浜田義一郎先生の思い出 俳句第二芸術論再考(一) 田畑伯史 (9) 川柳に現われぬ方言(二) 魚沢白骨 (11) 柳多留廿七篇…

九月

▼どちらの土地でもそうだろうが松本も音楽が盛んである。音響施設を誇る松本市音楽文化ホールが開設され、毎日何かと催しがあって賑わうが、また一方で才能教育の鈴木鎮一さんの音楽活動は世界的名声を持つ。夏期講習会は多くの外国人が滞在にやって来る。 ▼…

九月

はみ出さぬ見出しが暴く揃い踏み 軽井沢談につながる秋ほむら パーティーのどろどろやがて種明かし 歓迎と抗議の旗に軋む海 資産公開吊りズボンなど見えて来ぬ 長い目でくるむ史書から取り結ぶ 放言の見る見る椅子の水びたし グライダー信濃の秋のまぎれなし…

五二二号(昭和六十一年9月号)

題字 斎藤昌三 表紙 いたわり 石曽根隆実 カット 丸山太郎苗場山記 赤羽憑通 (1) ―山の雷について― 信濃の狂歌(二十八) 浅岡修一 (4) (シ)式部地区(その2) 【107〜119 硯庵文丘、森潤亭笹丸、他】 柳多留廿七篇輪講(五十九) (11) …

八月

▼活字を一本一本拾って、並べるという仕事は、私のところで名刺印刷くらいになってしまった。組み置きの結婚披露状や葬儀通知状なんかも、活字を差し換えする段階ものだが、時期的のこともあって、毎日というわけにはいかないから、活字を死蔵しているみたい…

八月

大臣生まる松本らしさ彩らせ 月収二百そのなかに入り診て貰う ぶつぶつと津々浦々の納め癖 逮捕十年超ゆるときめし時の流れ 家居職場なお長く曳きずる西陽 てんとむしブリキ玩具を恋うに似て 水すまし小技弁えつつ追われ 小石ゆりおこす沢蟹のはじらい ふん…

五二一号(昭和六十一年8月号)

題字 斎藤昌三 表紙 「国宝」 石曽根隆実 カット 丸山太郎随想四題 多田光 (1) 信濃の狂歌(二十七) 浅岡修一 (7) (シ)式部地区 【102〜106 矢竹伏躬、卯花垣千雄、他】 柳多留廿七篇【輪講】(五十八) (11) スランプ・句作 池田正受郎 …

七月

▼髪の毛も退却の部類に属するので、刈って貰う機会が少なく、あまり理髪店へは行かない。家族のものにもういい加減に当てていらっしゃいとすすめられる。そう言われてすぐさまウンといい返事はせずに、二三度くり返されたあとやっと腰を上げることになる。 ▼…

七月

三百の恣意矯め延べる手を問われ 大型とミニの呉越の肩馴らし 論評と実相の間で貰う鍵 したたかに衆愚櫓さばく腰ゆらそ 並ばせて離婚瞭らか黒子めく 声ならぬ声いま逆光をとらえ 横たわる無聊と違う自分らしく 数ならぬ身のいとしさにくるまって ふとよぎる…

五二〇号(昭和六十一年7月号)

題字 斎藤昌三 表紙 「母校の昔」 石曽根隆実 カット 丸山太郎信濃雑俳書解題 矢羽勝幸 (1) (二三)十八公の恩恵 信濃の狂歌(二十六) 浅岡修一 (5) (サ)牧布施地区(その2) 【92〜101 松園一枝、梅園春雄、柳園流蛙、他】 柳多留廿七篇輪…

六月

▼みんな齢格好がおんなじで気が合った連中だから、集まる時間が誠に正確で、いくらも待たず迎えの車がやって来た。 ▼運転手が盛んにみんなをおだてるようにして、マイク歌唱をすすめるが、どうも相槌を打つ者がなく車の中はひっそりとしたもの。 ▼飴玉やごく…

六月

同時選挙賛否爛々綱渡る 政争の具にたじろがず相摩して 差益還るうるおうまでに明るかり 脱税白書暗部さしもに身の削り 産み分けの倫理が聞かすねんころり 幼くてしんこ細工の夢あかり カルメラのまろさかばえば午砲とどく ほうずきのひと鳴らし雨少しずつ …

五一九号(昭和六十一年6月号)

題字 斎藤昌三 表紙「雨」 石曽根隆実 カット 丸山太郎あの頃スケッチ 節秀夫 (1) 時の流れに 浅井由子 (4) 信濃の狂歌(二十五) 浅岡修一 (6) (サ)牧布施地区 【78〜91 永江、若駒、千草他】 柳多留廿七篇輪講(五十六) (10) 輪講落ち…

五月

▼毎朝といってよいほど、松本城近くを散歩するが、ぐるりっと回って道を横切るとき偶信号が赤となり立ち止まる。そこが理髪店でウインドウに飾ってある 舞遊 柳家小三治 小岩井さんへ の色紙を眺めながら、ヌーボーとした面魂をフッと浮かばせる。むくつけき…

五月

十指みな味方稼ぎの貌を持つ 雑学に遊ぶ年甲斐かかりあい 老いのほころび憎からず丹念に ひたに落つ追われ者たる掌のしずく 鄭重に新聞値上げの小咳払い 年寄りに覚えめでたき眼鏡越し 運の尽きやおら尻尾が笑い出す おぞましきかな醜さの攀じ登り 反乱の誰…

五一八号(昭和六十一年5月号)

題字 斎藤昌三 表紙 一つ目二つ目 石曽根隆実 カット 丸山太郎松本・信州五話 多田光 (1) ふぐ漫筆(七) 小野真孝 (7) ひふぐ・ふぐもどき・その他 随想 早春のたわごと 吉江義雄 (10) 柳多留廿七篇輪講(五十五) (12) 信濃の狂歌(二十四)…

四月

▼「浅川征一郎君は元気かね」と塚越迷亭さんがお便りを寄こしたのは、戦後しばらくたってからのこと、全国浴場新聞を発行していたから、取材によく松本に来た。長野県浴場組合長が松本に在住しているので好都合のようだった。 ▼迷亭さんは昭和十四年、台湾に…

四月

なだめやる人の痛みのよこたわり 一敗地に塗れ仮寝のまた覚めて しおらしく振舞う受身今ぞ濃く 明暗を分かつ青春期のカード 海に陸に不慮の呻きのただならず すさぶ世の寄る辺求めしわが枕 リベートを暴かれ素っ首のくねり 蓋明けて癒着の悪夢揺り起こし 役…

五一七号(昭和六十一年4月号)

題字 斎藤昌三 表紙 石曽根隆実 カット 丸山太郎行徳漫筆 鈴木倉之助 (1) ふぐ漫筆(六) 小野真孝 (4) ふぐ毒について(2) 信濃の狂歌(二十三) 浅岡修一 (6) (ク)〜(ケ)、比田井、片倉、春日地区 【59〜65、森開亭蓋丸、米斎倉積、短…

三月

▼歩道をつくることが目的で、両側お互いに引き下がって家を建て た。資金の関係で少し庇を削り取ったり、改めて家を改築するものもいて、一年のうちに揃って道路拡幅の祝いをした。それからもう十二年が過ぎる。 ▼階段の昇り降りに身体を動かす習慣が出来、…

三月

友衷う風花過ぎし日を濡らす 耳にある声音さよなら世を隔て 求めやすき道に願う小さな負 死んだふり虫の本音の鎮まり来 寄り添えばうからやからのゆるむまま 景況のかげりコツンと老いを叩く どの山もすがた持ち合い呼びたげな いのち長かれくすくすと笑み給…

五一六号(昭和六十一年3月号)

題字 斎藤昌三 表紙 石曽根隆実 カット 丸山太郎本音からする川柳雑感 東野大八 (1) 信濃の狂歌(二十二) 浅岡修一 (5) (キ)天神林地区 正岡容氏は私のナツメロだ 塩原慎次郎 (10) 嫁の荷 ―姑と嫁― 向山雅重 (12) ふぐ漫筆(五) 小野真孝 …