五月

▼毎朝といってよいほど、松本城近くを散歩するが、ぐるりっと回って道を横切るとき偶信号が赤となり立ち止まる。そこが理髪店でウインドウに飾ってある
    舞遊  柳家小三治
 小岩井さんへ の色紙を眺めながら、ヌーボーとした面魂をフッと浮かばせる。むくつけきおのこという塩梅である。
▼この小三治、浪人時代のテーマで、遠藤周作檀ふみと鼎談していたとき、進学志望で予備校に通ったが、居並ぶなかに異様な雰囲気をかもす輩が煙っぽく、何とも我慢がならず遂にやめてしまい、それがきっかけで落語の道に入ったと告白し、シュンとさせた。
▼色紙の持主の小岩井さんのお子さんは私の孫と同級生、やはり別の同級生のおやじさんから孫に贈られた色紙は古今亭志ん朝の自画像もの。孫が落語を好きなことを知っていて下さった。自分の部屋にちょこんと座ってござる。
▼川柳まつもと老人クラブの大内清一さんは本誌の雑詠に顔を出すが、円生によく似ているので、ちょいちょい話題になる。その円生が円楽、円窓らを引連れやって来た。寄席何するものぞの意気の揚がった頃、円楽は盛んにわが道あるをまくしたてた。
▼円窓とは同席したことがある。長野青年会議所主催婦人学級講座のなかに円窓の「私の生い立ち」の話が取り入れられ、私も川柳で加わった。生粋の江戸っ子生まれ風俗人情をたくみにユーモアでくるんで語り、場所を変えて落語二席を唸らせた。パーテーも開かれ共にする愉しい時間だった。
長野市に近く須坂市がある。愛好者のために自ら志して、あまり聞かれないえりすぐった古典落語をひっさげ足繁く運ぶ円窓でもある。
▼公民館グループ句会で
  芸人と握手は何とやわらかい
         金子よし子
 公民館にほど近いところで円菊独演会があり、初めから終わりまでサンザ笑わせた印象が深く、そんな様子を自分で笑わせて見せるよし子さん。別れ際の玄関で握手の感触のほどよさはわかる。私もいつだったか、円菊のもさもさした語り口を鈴本で聴いた。