2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

水車

夏目成美、鈴木道彦とともに寛政の三大家とうたわれた井上士朗は、名古屋の俳人。本業の医者のかたわら俳諧を加藤暁台に、国学を本居宣長に学んでいます。享和元年(一八〇一)名古屋を出発した井上士朗ら一行が江戸を下り、善光寺、松本、諏訪を経て飯田に…

犬のオアズケ

朝の散歩をしてゆく道すがら、愛犬家によく出会います。手綱にしっかり結わえられた犬が、前向きに喜び勇んで夢中で綱を引っ張ってゆきます。それとは反対に、飼い主の歩くままに、綱は垂れてアッチコッチを道草ばかり、ノロノロ歩くものですから、たびたび…

浅間いとしや

トテ馬車というのは、トテトテと鳴るラッパを吹いて客を呼んだ馬車のこと、私の幼い頃はまだ街中を往来していました。 母に連れられ、トテ馬車で浅間温泉に出かけるのがとてもたのしみでした。急いで走るでもない馬のカッポ、カッポの蹄の音は聞く耳に快く、…

絵葉書

姉がお嫁に行くときに残しておいたてごろな小箱がありました。それはちょうどはがきが入るほどの、朱塗りで模様がある小さな箱です。中に幾枚か大事にしておいた葉書が出てきました。 メリー・ピックフォード、ルス・ローランド、パール・ホワイトという映画…

鳥居火

花見のいい季節に恵まれた嬉しさ、テクテクと城山公園に登っていきました。晴れた日の頂上から眺める展望は素晴らしく、大きく息を吸って浩然の気を養うにもってこいです。 ここにはいくつかの句碑や歌碑や童謡碑が建てられています。私が佇んでいるとすぐそ…

さくら

戦国時代、駿河の今川と相模の北条両氏は、甲信二国を領有する武田信玄と戦っていましたが、これを苦しめてやろうと塩の輸送を断ちました。これを聞いて信玄の好敵手、越後の上杉謙信は「多くの庶民こそ暮らしにお困りだろう。わしが争うのは弓矢にあって、…

恩師

陽春の四月は、どの学校も入学式です。私は大正五年に父に連れられ、制帽をかぶって尋常小学校松本市立田町部の校門をくぐりました。六つ違いの姉は、松本高女で、姉さんぶって面倒を見てくれたっけ。 羽織、袴でした。いまのように洋服ではなく、足袋を履い…