1971-01-01から1年間の記事一覧

十二月

▽毎朝定刻になると上の孫は保育園に出掛ける。近所のお友達と連れ立って、交替のお母さんやおばあさんの介添えがついてゆく。その日は真ン中に入り、両方の手がお友達一人ずつの手に結び合い、翌日はまた別なお友達が真ン中になる。三人である。どれも女の子…

十二月

目を覚ますその真実に向いてゆく 遠い美しさが呼んでいる他愛なさか ひとすじの道とも思うせつなき日 音ひそめ合うかたくなさに触れ 裏付けをするかのごとく雪降らせ おろかにも持てる力を見せてしまう 本筋にかえったという逃げ道よ もとの静けさほんとらし…

三四五号(昭和四十六年12月号)

題字・斎藤昌三 七一年三つの好出版 石原青竜刀 顎庵柳話(十四) 田畑伯史 柳間散歩(E) 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 柳多留二篇輪講(十二) 句会報

十一月

▽愛用のペンで、とても素晴らしい発想が生まれて来るなんて考えたことはない。土台、大した頭でないから、その場しのぎの思惑が図に乗ったかたちとなって、そこで思いを述べることになる。 ▽置かれた石があって、その石がとてもカッコよいので、さわって見た…

十一月

一個の玩具が土の匂いを教えるか こせこせと日記にゆだねてゆく卑怯 隊商がつづく名もなき星落ちず 黙りかけて起つや味方をねめまわし 昔ひきもどしとぼけて疣をいじる なぜか静かな道がある腰を下ろし 一心に逃げる世俗でけつまずき 時が大人にさせポルノ出…

三四四号(昭和四十六年11月号)

題字・斎藤昌三 顎庵柳話(十三) 田畑伯史 川柳評万句合に現われたる 三井呉服店の研究補遺(三) 鈴木重雅 続・具里院巷談(6)【(9)性慾(1) 】 岩本具里院 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(十一) 句会報

十月

▽どこかで会った顔だが、誰だったろうと始めはいぶかしがったけれど、つい先頃ご主人の転任のはがきを注文に来たその妻君であることに気がついた。あんまりパリッとした洋装なので見違えたわけだが、率直に話しかけてくるので用件を聞くと勧誘だ。 ▽こういう…

十月

持って廻った言いのがれ置いてゆく ものの譬というだけのからくりよ 団交の歯車の油をさがす 元の鞘におさまった顔並んだ並んだ 聞いた風なせりふ政治にくりかえされ 上り坂物価高振り向きもしない 過激派の暇ぬすんで真上の陽 人の目をうかがうどっからか隙…

三四三号(昭和四十六年10月号)

題字・斎藤昌三 ぬくいかなしさに【〈山彦〉集鑑賞】 福島真澄 川柳評万句合に現われたる 三井呉服店の研究補遺(二) 鈴木重雅 柳間散歩(D) 東野大八 鈴木重雅さんへ 富士野鞍馬 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(十) 句会報

九月

▽三十分経つと小刻みに時を打つ時計がせっせと励んでいる。こちらも張り切らなければならないわけで、ふっと目覚める頃合いに起きて、時計の針の指し向きを見ると、自分の思った通りの時刻なので、齢を取ったものだなとひとりうなずき、父が誰よりも早く目覚…

九月

老いの夢のたじろぐ壁がやわらかし 身づくろいして隙だらけ近づかせ むかしの道に月の歩を見つけ出す 黙ってついてゆく外ならぬ人 はなやかに消える花火と連れ添って もの欲しげなる明るさが取り得なり 風当たり遠く見守る顔を覚え わが影を拾うせつなき息使…

三四二号(昭和四十六年9月号)

題字・斎藤昌三 顎庵柳話(十二) 田畑伯史 続・具里院巷談(八)【恐怖感・知識慾(3)】 岩本具里院 川柳評万句合に現われたる 三井呉服店の研究補遺(一) 鈴木重雅 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(九) 句会報

八月

▽ここに生きているのは何だろうかとひねって考えたことはない。生きる世界のなかの自分はどうなんだろうともむずかしく思ったことはない。たしかにここに生きているのは自分なのだくらいに気がつくだけである。生まされたのだこんなところにひょんな恰好で出…

八月

夏の終りのまた果てのからくりよ いたでおわせし裸身かくひきしまり 時に残され猫背陽が救いに来る 生活にからまる声をひそめたり 沖縄の願い汗ばんでゆく現地 みんないい人で風景にはまった 主人公鞭を忘れず鞭打たれ 都会のおちこぼれ顔しばし放さず 誰が…

三四一号(昭和四十六年8月号)

題字・斎藤昌三 柳間散歩C 東野大八 顎庵柳話(十一) 田畑伯史 続・具里院巷談(七)【恐怖感・知識慾(2)】 岩本具里院 ほうろく孜 石崎柳石 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(八) 句会報

七月

▽川の字なりに寝るナンテ古い川柳にあったような気がする。右と左が夫婦で、真ン中が生まれた子なのだろう。とんでもない、子は右か左で、並んだのが夫婦なんだからわるく思わないでネ、どこまでも仲がイインダからネ。念を押すように、そんな風にきめこむ手…

七月

越ゆべきをふりかえる気にふれてやる 向日葵の黄にさからわずいそしむ身 いたわりの言葉さもしくよぎるなり 赤の凛烈さかしらに時を仰がせ 涙ぐむはしたなさ持って生まれて 目覚めては老いの恥らい沈めてむ 身に覚えあるくりごとの闘いよ そこで人間の顔があ…

三四〇号(昭和四十六年7月号)

題字・斎藤昌三 命なりけり命なりけり 大村沙華 続・具里院巷談(六)【恐怖感・知識慾(1)】 岩本具里院 古川柳と太田南畝 石崎柳石 柳間散歩B 東野大八 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(七) 句会報

六月

▽下手な字でも個性がにじみ出ているものがいいんだと自分に言い聞かせて、頼まれると臆面もなく揮毫してやる。揮毫なんて仰々しく考えるつもりは毛頭なく、支那の名墨で露さらないことを知っていて、筆もなるべく禿びたのでたどたどしく書くのである。 ▽いつ…

六月

老いの姿を眺められ気負わずに しがみつく糧ひたすらに並んでやる 闘いのなかの休らい旗挙げて 無理からぬ話で善意ついてゆく 名を惜しむこのひとすじの道あれや 政治のしぶとさに雨は横なぐり 思惑に立たされ黙って闇が吸う 笑いの底に身を置いて知る齢か …

三三九号(昭和四十六年6月号)

題字・斎藤昌三 川柳時評 あいも変らぬジャーナリズムの川柳観 【渡会恵介の古川柳至上主義について】 石原青竜刀 顎庵柳話(十) 田畑伯史 続・具里院巷談(五)【征服慾(三)】 岩本具里院 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 柳多留二篇輪講(六) 柳…

五月

▽交通が激しく、人間が追いやられた恰好だからほんとうにみじめである。齢をとると足の方が弱くなるから、さし向き自転車に乗ったり、歩いたりして少しでも足をかばってやらねばならない。みんなまだ寝ていて、睡眠の時間を見はからい、少し早く自分だけ目覚…

五月

自分が応えたい道歩いてゆく 朝顔の色でまっしぐらに目覚め 昔を戻そうとするその胸に聞かせ ときに夢見るひとみ老いしばたたき デモの列のひのき笠花見ではない 昆虫のいのち標本から脱け出し 情報をすりぬけたひとつの感度 裁判されにゆくたかぶりを許し …

三三八号(昭和四十六年5月号)

題字・斎藤昌三 柳間散歩A 東野大八 川柳私論(五) 八坂俊生 顎庵柳話(九) 田畑伯史 続・具里院巷談(四)【征服慾(二)】 岩本具里院 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 柳多留二篇輪講(五) 句会報

四月

▽電話の応待は私にしてある。事務所というわけだが、電電公社から呉れる電話のエチケット集に添わない無骨さがあることは争えないが、それがまたいい面として受け入れてくれる人もある。どんなところかというと、ツベコベお愛嬌を振りまかないで、ざっくばら…

四月

抵抗の影なき影を目の裏に 身の程を知るかなしみがうなずかれ 遠く死のうえの意味なき枕言葉 にじみ出る涙わがことならずとも 反論のなか覗かせぬ息使い まっとうな道ここに慎みの一列 笑いにまぎらかし齢誰にか告げん 勝たんともせずゆるやかな坂その坂 た…

三三七号(昭和四十六年4月号)

題字・斎藤昌三 五七五亡者を笑う 石原青竜刀 顎庵柳話(八) 田畑伯史 ばれく考 石崎柳石 続・具里院巷談(三)【征服慾(一)】 岩本具里院 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 オフセットの本 石曽根民郎 川柳私論(四) 八坂俊生 柳多留二篇輪講(四)…

三月

▽自分の齢ぐらいのとき、父はどんなことを考え、どんな仕事をしていたかと、どうも此頃気になって仕方がない。八十余歳をながらえた父だったが、いまの齢からいえばこのうえ二十年頑張らなければならない。進取に富んだ積極性がときどき私の脳裏にちらつくほ…

三月

かたい蒲団に落ち込めず明日へ行くか 妻のヌードにおちぶれた思い過ぐ 夢があったとしても動かない構図 眼鏡拭く寝床まっすぐな道だ 酔いのかなしみをとらえひとりたり デモの声を街に許してわが暮らし 革新の魅力ではない届かぬ手 涙目の犬に抜かれて茜空 …

三三六号(昭和四十六年3月号)

題字・斎藤昌三 前衛ということ【映画「サテリコン」を観て】 東野大八 時代潮流と現代川柳 河野春三 雑詠 大空 石曽根民郎選 柳多留二篇輪講(三) 句会報