1999-01-01から1年間の記事一覧

十二月

小さい鏡が手元にあって、きまったように自分の顔を見る。兎角、無精者の名に恥じず、さっぱりとした顔を写さないで、鼻の下と顎のあたりがやぶさったい毛が残る。 応揚にたっぷりと髭を生やさないで貧乏性をあらわす。誠にげすの後知恵の名に恥じないわけで…

十二月

ぬっと出る旭の機嫌まだ欲しい 重い荷と軽い荷とゆく押し黙り 露の世と更に昔のひとのぞく 身の程を頭痛重ねて連れ立つか 待っててねそう言いながら手を振って いくつかの総てにおくれとるまいぞ 天然の美と人の美と連れ立って 熟睡のそこまで知った夢がある…

六八一号(平成十一年12月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 福島真澄 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 飯島花月の狂歌(四) 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(百四) 誹風柳多留十三篇略解(二十五) 課題「明日」 一ノ瀬春雄 選 「足」 猪…

十一月

郊外地から都市化に発展して大きい変貌がもたらされている。まだ田舎じみた様相そのままのところもないわけではない。質素のようなたたずまい、黙ってちょこなんと住む、そんなところか。メゾン何々と屋根のあたりに目印が有って二階造り、駐車場が広く朝夕…

十一月

ひたばしり老いの便りをいま出そう この世との縁の深さの九帳面 九十われ目立たぬ顔のここに在り おんぶしたい顔はせず杖が一本 生きてゆく道によろよろ笑わない 健康雑誌未練か渋い顔をする おだやかな日はちよこなんと座る こだわらぬはからいじっと頭が下…

六八〇号(平成十一年11月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 阪井久良伎 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 飯島花月の狂歌(三) 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(百三) 誹風柳多留十三篇略解(二十四) 課題「雲」 寺沢なおみ 選 「魚」 飯…

十月

家にいても山が見えるし、外出すれば四方八方山ばかり。嬉しい時でも悲しい時でも山は元気がよい。存在感を山自身持っているわけだ。それだけ堂々としている。 てくてく歩いて行って、あたりを見回すと親しげに山がもう挨拶してくれる。近い山、そして遠い山…

十月

磊落な言葉が生まれ置いてこう 真実の裏を見せ合いとぼとぼと 親戚の集まり齢は見え隠れ 落ち着かぬ言語がひとつずつ騒ぐ 足萎えて変わり盛りの今もなお 粛々と無駄な道とは思わざる 死はそこで待たんというか風も同じ 目の前に疲れた茶碗だけ並べ 驚がす通…

六七九号(平成十一年10月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 森東魚 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 飯島花月の狂歌(二) 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(百二) 誹風柳多留十三篇略解(二十三) 課題「鳴る」 竹内正直 選 「部屋」 赤木…

九月

郊外地といっても、まるっきりハイヤーが通らない訳ではない。朝など出勤時間にはひっきりなしに忙しそうに通るから、学校へ行く児童たちが注意深く見守って、道を譲る姿がいとしいくらいだ。 ポストは近くにあり、時間を見計らってキチンと集めに来るから覚…

九月

如才なくのどを鳴らして好々爺 ゆゆしくも用意たちまち死を想う 昔噺老いは来ないとさし向い ひとりごと夜中のわれを拾い出す 道しるべ年寄りの知恵磨くべく あしからず自分を拾い出す時間 百名山さらに深くて眠り欲し 薬忘れず咲き出す花と噴く山と どうぞ…

六七八号(平成十一年9月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 篠原春雨 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 飯島花月の狂歌(一) 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(百二)【百一】 誹風柳多留十三篇略解(二十二) 課題「水」 丸山山彦 選 「車」…

八月

五十四回目の終戦記念日である八月十五日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京の日本武道館で開かれた。 思えば昭和二十年、長く一家で住んでいた家屋の強制疎開の難に遭う。電話局周辺五十米に接する民家は七月十五日限り、白壁に泥を塗ったくり迷彩を施した…

八月

老夫婦さびしがらせるものじゃない どこで曲がったのかこの辺のふくよかさ ずんずん走ってゆくそばで待ってよ ほんとうの別れが近い一日が大事 孫と墓詣りゆずらぬ歩幅 九十の何故かやる日が連れてゆく 歳はこんなに多くてまた黙らせる 一日が大事頭痛もなん…

六七七号(平成十一年8月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 阿部佐保蘭 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎 選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 鯉の滝登り外六編 石曽根民郎 川柳評明和八年万句合輪講(百一)【百】 誹風柳多留十三篇略解(二十一) 課題「髪」 浅井由子 選 「あげこ…

七月

風呂へ入ったあとは清々しい気分で、つい団扇を取りたくなってひとあおぎする。猫でもいれば一緒に風のこよなき涼しさにまぎれて、その名前を呼びかけたくなるものだろう。玉とかミケとか、それぞれ愛称があって可愛さが湧く。 そこへ行くと犬の方は玉とかミ…

七月

老夫婦悲しい顔はまだしない 共にステッキ旅行だけは忘れてる 背は低くそれで目方は負けてない 思い出の鞭になしとはいうまいぞ 未亡人になろうと勝ち気思案せず 口下手なわれ下手を凌いでまた或る日 よく生きた生かせてくれた感謝する 短かい道のりか死ぬと…

六七六号(平成十一年7月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 安川久流美 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 めでタイ話から外六編 石曽根民郎 川柳評明和八年万句合輪講(百)【九十九】 誹風柳多留十三篇略解(二十) 課題「ベテラン」 一ノ瀬春男…

六月

春陽堂が復刻創作探偵小説として四六判、美装ケース入り、江戸川乱歩の心理試験、屋根裏の散歩者、湖畔亭事件、一寸法師。小酒井不木の恋愛曲線、甲賀三郎の琥珀のパイプ、恐ろしき凝視を発売すると広告が出ていた。大正末期から昭和初期に刊行したアンソロ…

六月

チクンと刺す何か人生小なるや 屁が自ずとやがて人生あざわらう 親切の情の姿が今日を現し お互いの別々の道広がって 散らばった机気性のあらわなれ 句手帳がきちんと並びオオと答え 老いのステッキ遥々長女から貰う 枕頭にメモあり迷吟の広がり 二枚舌持つ…

六七五号(平成十一年6月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 冨士野鞍馬 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 一滴の水 室山三柳 川柳評明和八年万句合輪講(九十九)【九十八】 誹風柳多留十三篇略解(十九) 課題「座敷」 芝波田和江選 「許す」 小…

五月

季節はずれの果物類が店頭に並べられ、初冬でなければ食べられなかった蜜柑類が、いま得意顔に売られている。ちょっと昔、すっぱいものが甘いのと肩を並べていたが、どれを買っても甘い種類になってしまい、特にすっぱい好みの人には物足りないらしい。 湘南…

五月

すみずみに老いがきちんと揃ったよ 振出しに戻る小さな恩返し ひとりごと夜中のわれを拾い出す やせこけたおのれことごとくひらめき あしからずおのれひとりをふくらます 夜の闇教えてくれるそのはなし あやふやな紐の落ち度が火花する 力貸すほんとの面が浮…

六七四号(平成十一年5月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 庄万よし 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 雀の羽のいろ其他 石曽根民郎 川柳評明和八年万句合輪講(九十八)【九十七】 誹風柳多留十三篇略解(十九)【十八】 課題「青空」 猪爪公二…

四月

しなの川柳社の所在は横田四の一八の三となっているが、本宅から離れて四年目に及ぶ。月日の早さに引っ掛かるが、齢のうえにもそれだけ殖えたことだから、つい年寄り気味を構えたがる。 予め郵便局に大手三ノ五ノ一三宛の便りは横田の方へ回送して貰うように…

四月

堪らなく心の襞を擽って ぼろぼろの神が出て見え仕舞いゆく それとなく馬に馴れ道草食べて 誰だろう心の旅を撫ぜてくれ 晩年の鐘のひたすら驕らない おどろおどろ濡れた言葉で耐え難く 夢見てたその一枚を大事がる 儲からぬ話で一緒に目が覚める 大きい話と…

六七三号(平成十一年4月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 長崎柳秀 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 狂言の川柳・狂句 武藤禎夫 川柳評明和八年万句合輪講(九十六) 誹風柳多留十三篇略解(十七) 課題「平」 竹内正直選 「門」 赤木淑子選 二…

三月

誰でもひとつずつ年を取る癖に自分だけとった強さを見せてひと笑いする。年甲斐もなくということを心得て、きちんと礼儀よく座っているところを見ると、満更でもなさそうだとひやかし気味。 一方で、年はとりたくないものと言うが、年寄りの言うことは聞くも…

三月

晩酌に柿と蜜柑で嬉しくなる 元遊郭女局長産毛少し 勇ましく不況の二字のたなびくか ぎつしりと詰まる寝言のひと腐れ やつたことなくパチンコの欠伸する きらめくものの尚おびえる髭 いい返事とりやすく夕焼け色濃し 缶詰の甘露テントまだちらほら 冬の山夏…

六七二号(平成十一年3月号)

題字 斎藤昌三 カット 丸山太郎 表紙 小林不浪人 色紙 雑詠「大空」 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 大空雑感 吉野圭介 白木ホール「狂言の会」の思い出 武藤禎夫 川柳評明和八年万句合輪講(九十五) 誹風柳多留十三篇略解(十六) 課題「相手」 寺沢なおみ選 …