七月

 風呂へ入ったあとは清々しい気分で、つい団扇を取りたくなってひとあおぎする。猫でもいれば一緒に風のこよなき涼しさにまぎれて、その名前を呼びかけたくなるものだろう。玉とかミケとか、それぞれ愛称があって可愛さが湧く。
 そこへ行くと犬の方は玉とかミケとは言わない。ポチが一番多くて、うちではチビが幾代か続いたが、その名の通り大きくならず私に似てこせこせした質だった。
 突然通行人に吠えかかって驚かす。交番に注意をしてくれるよう何回もお叱りを蒙った。人のよさそうな人に限ってる見たいで飼い主は閉口したものだった。
 放し飼いで余程でないと首ったまに錠がつけられずにすんだからそれだけ犬にとっては自由だったから、あちこち苦情が申しこされ詫びることで閉口する飼い主の苦り顔が悲しげにに見えた。
 子供の頃、近所の河辺で水浴したり相撲をとったりしたものだが深い所へ行くのが自慢の手本のように見られ、勢いそういう手柄を見せたがった。
 知らず知らず深い所へもぐってしまい、それがアップ、アップと言い方を変えて大騒ぎした。時折何かコックリコックリとうなずくような首の振り方で流れて来た。みんな西瓜ならいいなあと思い合わせ、しばらく待った姿勢で首だけ出して待つのだが、西瓜とは夢のようなものだと飽きらめる方が多かった。
 玄向寺は山のようなところにあり、流れが上の方からだんだん下へ来る冷たい泉に似て、あちこち蟹がいるものだから、小さい石ころを押し上げさがしたものである。
 とても可愛い蟹で、捕って来たのを家へ持って来、水槽のなかに入れて見て楽しんだ。割りに長く生きていてくれ、子供ごころを誘った可愛さ。
 諺語大辞典を繙くと、和歌山地方の俗信に
 蟹を殺すと金比羅詣の海上
 難破する
 金比羅様へ這入った泥坊のやう
  不詳
 もうひとつ
  蟹は甲羅に似せて穴を掘る
 人それぞれ身分能力に応じた望み。