1994-01-01から1年間の記事一覧

十二月

昼飯抜きを好む人もいるようだが、それを健康法と自負するのだから仕方ない。長い間きちんきちんと三度の飯を欠かさずに、時間を忘れず決まった席で戴いている几帳面のいじらしさ。団居に通じるといってもいい訳だろう。自慢することでもないし、一般の家庭…

十二月

殊更に覚えめでたき人に逢う思い出し笑いゆつくり時は過ぐ生首のどすんと据わる実力派先着順氷ととても仲よしだ数ならぬ身のうつつ世のいとしさや吉凶のさだめに落ちた逃げ口上老幼の涯極まりしいのち添え有終の美のなかに棲む大愚とか慟哭の綴り方時代を越…

六二一号(平成六年12月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 北斎の自画像 石川一郎 誹風柳樽拾壱編略註(十六) 【民俗雑話】正月点景 胡桃沢友男 川柳評明和八年万句合輪講(四十四) 同社会 金子よし子 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「ぬるい」 吉江義雄選 「絶…

十一月

朝、顔を洗ったあと、すぐ水をコップに一杯飲むことにしている。名水と呼ばれるものではないのが口惜しいが、それは我慢のしどころと言うものか。 こうすることで胃腸によいと聞かされ、こんな楽な養生法なら忘れずに実行出来そうだ。 そして夜寝る前に足の…

十一月

体調の崩れまぎれの鶴の首朝の水一杯が待つ平常心びしょ濡れて音の風景罷り出る横笛の瞬時小太刀となる寓意しのび寄る老化さすがに気前よくもろもろのすがた窶して小じんまり裏漉しの珍味田舎をぬくませよ逃げ場かく許されし果て声を成す順応に怠りなくば添…

六二〇号(平成六年11月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 川柳評明和八年万句合輪講(四十三) 「遺す」ということ 輪湖嘗次 誹風柳樽拾壱編略註(十五) 信濃蕎麦に関する狂歌 浅岡修一 【民俗雑記】田の神だった案山子 胡桃沢友男 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課…

十月

歳とって老いを磨くなど気張っような言葉になりやすいが、それでいて無性に寂しくなることがある。だんだん追いつめられてゆく過程で、なるほど果てが近いなと素人判断で悟った顔をする。 当然のように呆けが連れ立って訪れ、こんにちわとも言わないで居座る…

十月

老木を撫ぜ合う別れさても濃くもぎ立ての林檎茸があしからずあの世この世つなぐ報いの浮き沈み大往生の大は柝への思い入れ寝静まるなにくれとなく問いながら念押してやらずの雨の強くなるお澄ましのしばし怒りを抑え癖連れ添うたえにしどこかを痛がって

六一九号(平成六年10月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 やぶい贅言 小野真孝【眞孝】 川柳評明和八年万句合輪講(四十二) 【民俗雑話】地蔵と閻魔と道祖神 胡桃沢友男 誹風柳樽拾壱編略註(十四) 「明八」輪講・愚見 室山三柳 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題…

九月

暑い日が続いて蝉のミンミンと鳴く声はうとましかった。灼きつくような日中を避けて夕方あたり、忘れかけた声を立てた。やれやれという感じだった。 夜になると灯を目掛けてどこからともなく蛾が飛んで来た。うるさかった。幼い頃は、夜になってから郊外の蛍…

九月

ベレー帽救援戦士らしくらしくひと群れの秋告げゆくかリュックサックまぎれなくやつと届いた老いの痛み鷹揚にいつか老醜連れ添ってかりそめに病めば小菊もいと細し憮然たり銃口更にまつたなくテレビでもゆりかご代わり眠り近し練りにくき案でぽっかり穴騒ぐ…

六一八号(平成六年9月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 尾形光琳の墓 室山三柳 川柳評明和八年万句合輪講(四十一) 誹風柳樽拾壱編略註(十三) 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「味」 小岩井節子選 「崩れる」 寺沢なおみ選 八月句会【宿題「大きい」公二選・…

八月

どこでも気温が三十度を越えてむし暑い日がつづく頃、事務上の連絡に遠方を駆けずり回ったのが無理だったらしい。健康に自信ありげな行動が我武者羅すぎた。 繁雑な処理であっただけに、少し神経をたかぶらせ、連日の暑熱も加わってか、とうとう身体をいため…

八月

酷暑との闘い蟻と一緒に黙る過ぎ去りしあまりに気前よく憎しハゲワシのテーマおのれの死を刻む台風の卵どこかで意地凝らしいくばくの旅路か泉湧くあたりおさらばはまだ早すぎるとか並ぶ快眠を許して貰う衆愚かも年寄りの手助け暮らし見て倦まず八月十六日わ…

六一七号(平成六年8月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 信濃の狂歌(一一一)【六、更級・埴科地方 セ、松代地区(7)】 浅岡修一 川柳評明和八年万句合輪講(四十) 偶然の出逢い 近藤明子 東京平和島骨董【市】 赤木淑子 【民俗雑記】山陰のサイノカミ 胡桃沢友男 誹風柳…

七月

七月二十六日は松本空港ジェット化開港で、大阪へは五十五分、札幌と福岡へは一時間三十分、一三四人乗りを利用出来るようになった。 大阪、札幌福岡空港からは、それぞれ全国各地の空港への連絡もあり、全国一日交通圏の航空も可能で、郷土の発展に大きい期…

七月

津々浦々毒が回ってすまながる検出の功過は待たれ毒の顔うごめけばコツンとあたる真の闇類を呼び合い奈落へのうた奏でありていに小さなおならおとしゆくぼろぼろに徹し晒せば落ちつくやエネルギー星の衝突天晴れな忍び泣き喚き泣き死はいつわらず看取る手の…

六一六号(平成六年7月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 中学校における古典指導 ―川柳を中心として 浅岡修一 「池大雅の句」【本誌平成六年六月号】補正 室山三柳 【民俗雑記】草鞋・草履は神々の履物 胡桃沢友男 川柳評明和八年万句合輪講(三十九) 誹風柳樽拾壱編略註(…

六月

足の小指に魚の目が出来て、歩行に難儀した。魚の目とはうまい表現で、たしかに腫れた真ん中に黒い斑点がこちらを見てる。医者に診て貰うほどでもないときめこんで、売薬で間に合わせた。 三日間毎に貼り続けてゆくうちだんだん皮が剥がれるようになりやっと…

六月

月光が洗う勝った手負けた足生きかたの違いどこから押してやろどっと仆れ稼ぎのうちの昼寝顔老人ホーム訪う安らぎと隔たりと現実を逃げ逆光すら遠くこんなにも静かな夜半にまた逢える断末魔階段の闇小刻みにぼけの座に就くべきもあれ道は道器用貧乏立ち直ら…

六一五号(平成六年6月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 池大雅の句 室山三柳 川柳評明和八年万句合【輪講】(三十八) 誹風柳樽拾壱編略註(十) 信濃の狂歌【六、更級・植科地方(16)】 浅岡修一 雑詠 大空 石曽根民郎選 山彦集 同人吟 課題「佳人」 丸山山彦選 「潜む」…

五月

月一回私くらいの人たちと集まる機会があり、四方山話に興じるが、今まで気がつかなかったことや初めてのことに触れるのでつい耳をそばたてたりする。 翁草とか蘖(ひこばえ)と言った植物語が出ると、こちらは不案内でギャフン。そこで私が口を入れた。 今…

五月

頻尿の夜半苦にならで夢が挨拶いつか別れのうたとなる磨かねば思い出が向こうから来る膝正し広い海深い谷かかる生きかた一病と二病の話す共に律儀君は長寿吾は馬齢でいまここに年甲斐の酒を許すか果てやがて誕生に小沢どろどろ全からず武嗣郎の苦言が届く胸…

六一四号(平成六年5月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 誤説まちまち 石川一郎 生きていれば 小林節子 誹風柳樽拾壱編略註(九) 川柳評明和八年万句合輪講(三十七) 中学校における地域古典資料の発掘 ―狂歌を中心として― 浅岡修一 本誌主要記事摘録(三十一) 雑詠 大空…

四月

「信濃の狂歌」を連載している浅岡修一さんは上高井郡小布施町に住んでおられるが、葛飾北斎と屋台彩色天井画を合作した高井鴻山はこの地の人である。京都に出、書画、儒学を修め傍ら大塩平八郎に交わり、江戸に出ては国学や蘭学を学んだ。 佐久間象山と知り…

四月

収拾の逃げ場ひとつをさがす埒先を争う群に狎れ通り雨道草やいびき合わせて懇ろにさっぱりとして喜びに逢えていたここに来て耳聡からずそれも真顔果つべきを誰も見て来し夢として大勢でくぐる隘路の愛想よく願わしく衆愚のほてり孜々たるや追悼に加わりやが…

六一三号(平成六年4月号)

題字 斎藤昌三 表紙絵・カット 丸山太郎 信濃の狂歌(一〇九)【六、更級・埴科地方(15)】 浅岡修一 【民俗雑記】路傍に吊した大草履 胡桃沢友男 昭和元禄・平成享保 八木敬一 川柳評明和八年万句合輪講(三十六) 誹風柳樽拾壱編略註(八) 雑詠 大空 石…

三月

和服の人は足袋を履くが、この頃殆んどが洋服だから、足袋は縁遠くなった。でも若かったとき履いた経験は持っている。靴下の測定とは違い何文(なんもん)という寸法だった。万事寸法どおりなんて使うけれど、妙なところで出っ食わす。 十返舎一九の「膝栗毛…

三月

人生の伴侶のやわらかい枕ひとあやめ人おとしいれ救いどこぞ隅々にゆきわたりたる慈愛いまもまやかしのおのれを飾る何を敷く官僚の壁に届く赤い夕陽か 姉逝く 二月二十六日 長男に先立たれ耐え日の流れ実家在る欣びをふとつぶやきし少女青春の過去のぼる白き…

六一二号(平成六年3月号)

題字 斎藤昌三 表紙画・カット 丸山太郎 輝け南十字星の海 ―親友豊田穣【異体字】の死に捧ぐ― 東野大八 信濃の狂歌(一〇八)【六、更級・埴科地方(14)】 浅岡修一 本誌主要記事摘録(三十) 川柳評明和八年万句合輪講(三十五) 誹風柳樽拾壱編略註(七)…