四月

 しなの川柳社の所在は横田四の一八の三となっているが、本宅から離れて四年目に及ぶ。月日の早さに引っ掛かるが、齢のうえにもそれだけ殖えたことだから、つい年寄り気味を構えたがる。
 予め郵便局に大手三ノ五ノ一三宛の便りは横田の方へ回送して貰うように申し込んであるので、その様な付箋をつけ一束にして届く親切さが有難い。
 市街と違い郊外だから辺りはひっそりとして穏やかだ。勤めの方らしいハイヤーが一通り走ったあとそれから静かになり、犬を飼う家が多いせいか、たまたま啼く声が一斉に聞こえるようだ。
 ひっそりとして静かなときを破るようにして物売がやって来る。なにやら物を出されたら、向こうの思う壷だから、その商品と同じものを私の親類が売っていますのでと断る。納得してくれても何やかや弁舌逞しく強引さを示す。
 富山の万金丹風情をこらし、一年間置いとくから試してくれと鋭い目つきをする。ソレ風船ダと言つて見せびらかす。やっと出ていったあと、また来たから「何ですか」と聞くと、さんざ喋ったからのどが渇いた、水一杯呉れ。
 婦人が笑顔をたやさず「信仰深い教書です。読めば常に神様がお守りします。是非々々」と言いながら頭をさげて懇願の体。
 「私のところは神道で宗旨が違います。どうぞお控え下さい」とうやうやしく言うと丁寧にお辞儀して退いてくれる。
 ちと手ごわいのが来ると、家族一同打ち揃い「私の町内は町内会長の許可がありさえすれば、お求めに応じていいことになっているんです。町内会長さんはすぐそこです」と言うと怪訝な顔つきをして出て行く。「町内会長さんの家はどちらで、お名前は」と言いながら不信そうな顔を向ける。
 ありのままがいいものだから、正直に話す外はないと思い、キチンとした態度で明かして正々堂々少しも驚かい。
 相手は町内会長のところを訪ね詳細を訊ねて、たしかめたかどうか、それはわからない。
 その後、このことに就いてとうとう不問のようになってしまったことを考えるより仕方がない。