十一月

 郊外地から都市化に発展して大きい変貌がもたらされている。まだ田舎じみた様相そのままのところもないわけではない。質素のようなたたずまい、黙ってちょこなんと住む、そんなところか。メゾン何々と屋根のあたりに目印が有って二階造り、駐車場が広く朝夕乗り降りで賑やか。
 一匹犬小屋があり、出発帰宅の都度の報告で大声がやかましい。送り迎えの礼儀のつもりであるから時間合わせの聞き覚えとなる。飼い主の方が近所からやかましいと注意されたか、朝夕の犬の挨拶の声を遮るようにして気を配ったりまでしている。心遣いが嬉しいものだと思う。
 あたり農村地帯で時期には大勢になって働いている。秋に近付く頃イナゴ捕りが始まり、店によって網袋に入ったのが売られ好機とばかり食膳を賑やかにする。
 醤油と砂糖でいためるのが好く脚のついたまま。好き嫌いがあって、箸の運びも違ってくる。
 もりもりうまそうに口にする者が思わず「うまい」とひと言すると、嫌いの者はせせら笑う。獲る者は自慢に「俺に出会うと睨まれた通りじっとして閉口」だから一緒に来た者と雲泥の差の如く自慢する。
 仲よく連れ立って来たからには庇い合いが肝心だけれど、競争心の強い者はとかく鼻っ柱を殊更うごめかし躍起となるもの。そこで一緒に来たものは「彼とはもう一緒に来ないことにしよう」と呆れ顔して戻る始末になる。
 イナゴはバッタの一種、稲の害虫だが飼料になり食用にも適するようだ。体は緑色、からだは淡褐色、後脚が発達してよく跳び、でも鳴かない。その癖、聴器があって、近付くとぴよんと逃げる格好。逃げ回るわけだ。
 子供は争ってその跳び方と競争しながら遊びたわむける。
 子供のなかで誰が一番つかまえるか競べたりしてはしやぐ。すばしこいイナゴとすばしつこい子供との脚くらべ、とりくらべとなる。
 田圃の中に入るので他人の用地だから、あまり乱暴なとり方をして目につく。「どうぞお願いします」とことわり方もあるもの。