六月

▼みんな齢格好がおんなじで気が合った連中だから、集まる時間が誠に正確で、いくらも待たず迎えの車がやって来た。
▼運転手が盛んにみんなをおだてるようにして、マイク歌唱をすすめるが、どうも相槌を打つ者がなく車の中はひっそりとしたもの。
▼飴玉やごく軟らかい菓子がそれとなく回って来て、この方に余年がないみたいだ。運転手はあきらめて、しきりに土地案内のマイクを引き受けて流暢。
▼山のなかを縫い、山のなかに入る。どこを見ても山から縁が切れない。新緑目映いばかり、陽の光はやや鈍いが、雨は忘れてしまったのか。
▼二時間ちょっと、分去れ(わかされ)を通る頃、もう雨の心配はなくなった。そして目的の旅館に着いた。晩春の軽井沢界隈。
 追分は股をひろげて道を聞き
      柳多留拾遺二【?】
 中仙道と北国街道の分岐点。すさまじいばかりに車の往還を目のあたりにするこのあたり、江戸時代、娼家居並ぶ花街だった。
   軽井沢でも燃ゆる胸の火
          武玉川五
▼昼飯がすんでしばらく休んでから会場に集まる。宿題三題をそれぞれ句箋にしたためる。題はみんなに希望するものを出していただくことになっており、今日の席題は期せずして「ぽっくり」である。
▼「苦しまずに楽にこの世を去りたい」「病弱だから心細い」「独り暮らしが寂しい」といった嘆きや願いが年寄りにある。ぽっくり寺の繁盛も耳にする。
▼総人口一億二千三百九十万人のうち一〇%を超えた老齢人口。二十一世紀を迎える七十五年には一億二千八百十一万人の一五・五七%にもなるそうだ。
 生きすぎてぽっくりが
   口癖となり      呆仙
 これと案に相違して
 老いの娘盛り赤い花緒の
   ぽっくりよ      きみ子
 ぽっくりと飴にとられて
   入歯抜け       守人
▼一泊、朝明けの軽井沢散策。落葉松が続いてゆく。浅間山噴煙。昼過ぎ出発のとき、女主人突然あの別れは辛いけどの星影のワルツが歌われ、私たちも繋ぎ合う。