七月

 これを書いている二十二日の明日から、信州大学非常勤講師として出演することになる。一応はテーマをまとめたが、一時間半を一講として、一日三講を仰付かったのでやや慎重気味である。
 冒頭から言い訳めいた老齢の溜息を聞かそうとは思わず、信大の前身のひとつであった松本高等学校の古川久教授について語り始めるつもりだ。
 雑談めくが、武井武雄画伯豆本の先蹤のあたりに触れたり、松本カトリック教会にいたフランス人ノエル・ペリー宣教師が能楽に堪能だったこと、そして私の生まれた年から二十年目の明治二十三年に赴任し、信者たちと一緒の写真があったこと。
 それから松高寮祭記念公演の狂言「伯母が酒」で野村万蔵師の名演技に接し、どうしたことか出演中、停電になったが、少しも驚かず朗吟が続けられたことなど。
 学校からのお話では、この日、多くの諸講師の講座があって適当な教室がなく、私の演壇は階段式聴講に面するから承知ありたいとあった。
 齢格好からいうと、孫が聞き手になるので、その辺のギャップを埋めるべく一考を要するだろう。その反応をいち早くとらえて、話の向きに考慮を加えることになるかも知れない。
 長野県出身のほかに他から遊学している学生もあるので、まず県歌「信濃の国」のコピーを配布しその大体を理解して貰いたいと思っている。なかに歌詞になっている太宰春台は近頃脚光を浴びるように、武部善人の「太宰春台」転換期の経済思想のサブタイトルの著とか、西沢書林発行「太宰春台のあしあと」のごとく出版があるので話す材料にはなる。春台を詠んだ古川柳を紹介するつもり。
 話のついでに狂歌を挙げるとき扇面で蜀山人が揮毫したものを持って行って架けるし、俳諧のときには現代にも触れ、東明雅本学名誉教授の主宰している「連句」をお見せしたい。私所蔵の「古今田舎樽」も手に取っていただく。
 七月二十三日、二十五日、二十八日の三日間。それから九月二十六日、二十八日が待っている。九月には主として現代川柳紹介。