十月

塩尻駅小野駅との間に東塩尻駅がある。この駅は急行は勿論、普通電車でもあまり停まらない。おや、こんな駅があつたかと思うほど小さい。本線から少しそれて入るところが駅で、その頃、上りや下りの急行に道を譲る恰好になる。スピードを出して走つてゆくのをぼんやり眺めるにはいい。
▽忘れかけたそんな駅が茸狩り吟行会の根拠地である。ここで降りた者は私たち川柳人だけだつた。みすぼらしい駅に飛び降りて見ると、塩尻のわが仲間が既に待機していた。それも多くの収穫を小川で洗つているではないか。
▽聞けば朝早く起きて、みんなのために山々を歩き廻つたという。その友情に感謝しながらふと見ると、仲間が大手を拡げて席題を示している。まだ汽車は動かない。物珍しく汽車の窓から眺めている旅のひとの目が親しげだ。
▽私たちはビクを与えられる。腰につけてもよし、ポケツトに入れてもよい。近代的な、あの透きとおつたポリエチレンであるから、収穫を見くらべ合つて鼻を高くすることも出来るし、しよげるのも早いという寸法。つけた途端、大収穫を夢見て、腰っつきもピヨコ〱している連中だ。
▽少しずつ山へ登り出す。日本アルプスの麓にいて、山にはすつかり御無沙汰な者たちが多いのだ。ゆつくり〱登つてゆく。山々は秋、そして晴れ上がつている。
▽わざ〱止め山まで開放してくれたというので、私たちは勇んでその山に分け入る。でも茸族は続々と笠を並べて私たちを歓迎しているわけではない。前人未到?ではあつても、声は立てず、こつそり恥ずかしそうにじっとしているから思うようにはならない。
▽いくつも、いろんな茸をとつたが、その鑑別は塩尻のベテランにまかせる。ピヨイ〱と無雑作にはねられる。でも私は大収穫だつた。松茸をひとつ見つけた。嬉しかつた。そつと根元から土を分けるのである。感触は格別だ。
▽披講しながら茸汁の湯気がたのしい。ぐつ〱煮えてとてもうまい。松茸・しめじ・りこうぼう。そして酒がおいしい。茸をつつきながら、しきりにみんなカアチヤンを思い出していた。