五月

▽五月句会は長野県川柳大会を控えているので、一週間繰上げて九日に開催した。一七音律で大いに闘おうという意欲をかりたてて人選が例によつて顔を並べてくれる。薫風こよなく愛すべき夜である。
あまり若い頃はいない。これは全国を通じてのことらしい。みんな齢のことには触れないで黙々と句想をめぐらす。
▽句会場であるわが家ではこの日私ひとりだけ。家内は長女の嫁ぎ先きに出掛け、ご機嫌伺いを兼ねての上京で留守である。それはおくびにも出さず、宿題と席題に一応の締切をうながし、そのすんだあたり、茶菓子があらわれる趣向である。ほつとした開放感にうまいタイミングをはずさない。
▽ちよこまかと下手な腰付きで茶菓子を選ぶ。当番幹事も手伝つてくれるので大いに助かる。ところがわがパートナーがいないことに気がついた連中はひよつと不思議がる。わけをただされると、まことに素直で正直ものの主催者だから、パンパーンと理由が披露されてゆく。
▽さてそれからが大変だ。女衆のいない殺風景をたくみに彩ろう派手な話題が飛び交うことになつて、晩春のトピツクがここではじけるのである。
▽ほんとうに佳い句が披講されたあと、私ひとりの夜の出来事をまことしやかに想像するのである。何と悩ましい宵ではないかといわんばかりである。
▽来会者に挨拶が少し大袈裟になるわが愛犬の大声を未然に防ごうと、前以て縛つておくのだが、もうしおどきとばかり、私がピーピーと出ぬ口笛を吹きながら愛犬を解いてやると、悪童連が「まあ何と下手な口笛よ。春の夜のデートにふさわしからぬ響きであることよ」とひやかす。彼等は私がひとりだけいるのに同情して、この愛犬とこの夜相擁することに逞しい妄想をひらめかすのである。
▽私と愛犬がひとつ家の夜を満たすべく、ながながと臥すさまを想像する。しかし私はみんなが解散した句会のこの夜、ひとり寝のさばさばした床の中で、彼女の身もだえの音すら知らず、ふかぶかと寝入つてしまつたのである。潔白は愛犬にも聞いてほしい。