三月

▽金子呑風さんの肝入りで昨年十一月廿七日上田市新田の呈蓮寺に花岡百樹さんの句碑が建立される催しがあつた。信州柳壇の大先輩だつただけに意義ある式典で、私も是非馳せ参じたいと思つてゐたが、病床にある老父を気遣ひ祝電を打つて出席は遠慮してしまつた。
▽その日は百樹さんの命日にあたつてゐた。句碑は
  つがもねえ此の鉢巻は江戸の色
            百樹
 昭和二十一年十一月廿七日に逝くなられた。私は一度もお逢ひせず、岸本水府さんが上田に帰られた百樹さんを見舞に行くといふお便りをいたゞいたとき一しよに出掛けたいと思つてゐたが、その日を待たず百樹さんは逝くなられたのであつた。
▽大阪在住当時の百樹さんとは屡々文通を交した。文字通り水茎の筆のあとの、あの女性的なやさしい細い筆づかひで、それがそのまゝ短冊にもあらはされてゐた。本誌昭和十二年六月号に「信州唯一の古柳書は松本から」とふ文を寄せられた。これは私が此頃復刻して活字本にした「田舎樽」のことを書かれたものだがなか〱の珍本で入手せられず、やつと二十数年振りの昭和二年に東京のミササヤ書店で求められたといふ。地元の私も是が非でも欲しいとさがしてゐたが、昭和十三年に名古屋の藤園堂書肆で求めることが出来た。小寺玉晃旧蔵本である。
▽今年は長野県川柳大会も十一回目になる。上田で開かれる事になつたが、当日は呈蓮寺にある句碑を見たいと思つてゐる。