九月

▽九月十五日、予定よりも少し遅れて午後一時近く岡山駅に着いた。国鉄バスで倉敷へ向う。知つている筈なところの案内に、案外自信なさそうなバスガールをあきらめて兎に角倉敷駅で降りた。
▽高校生が駅通りを清掃している最中だつた。学生に聞くのが一番安心だから、早速尋ねたら実に親切に教えてくれた。嬉しかつた。
大原美術館は案に違わず玄関で先ず旅人を落ち着かせてくれた。印刷物でよく見る有名な画が実物でずらりと並んでいた。いつだつたか東京でルオー展があつたが、ひどく感動したことをよみがえらすように「道化」や「呪われた王」があらわれた。
▽自分でわかる画をたのしんだ。まだ解せない画は次の機会にゆずることにした。無理をせず、鑑賞出来る自分の生長を見つめたいと思つた。
▽昔、舟の出入りの賑やかだつたおもかげを追いながら、近くの倉敷民芸館をのぞいた。松本でも丸山太郎さんが民芸に堪能だが、係の人に聞いたら詳しかつた。言伝てを頼まれてしまつた。
▽鈍行列車で岡山へ。丁度国体が明日から開かれるというので、私が津山線に乗ろうとした。皇太子、同妃が到着された。目のあたりで敬意を表した。
▽夕方、弓削駅岡山県久米南町)に着くと弓削川柳社の人たちが出迎えてくれた。同じ列車に大阪の岡橋宣介さんと奥さんがいたことが降りたときわかつた。
▽宿には大阪の堀口塊人さんが来ていて、そのうち神戸の房川素生さんも見えた。寝るときになつて岡橋さんはみなさんにすまない、一緒に寝るとはにかんだ。奥さん同伴は岡橋さんだけで、気持はわかるが、奥さんひとりではこちらがおちつけぬからどうぞとやつとすすめ、別室に二人でやすんで貰つた。白髪だがこのとき宣介さんは少し頬が赤らんだ。
▽いびきをかくからと、一番隅に寝た塊人さんが何ともなくて、素生さんが夜中に大声一喝、塊人さんと私を驚かせた。朝聞いたら本人は知らぬという。
▽九月十六日、第十四回西日本川柳大会はまことに盛大で、「川柳の町」にふさわしい集りだつた。