四月

▽久し振りで京都へ出掛けた。四月一日に平安川柳社が創立満五周年記念川柳大会を開くのでその選者に頼まれ、例によつて仕事のやりくりを済ませ、そそくさと汽車へ逃げるようにして小さい旅は木曽路から始まつた。
▽京都駅に着いて宿舎へ行くバスでまずあわてた。腰掛けている運転手にいきなりバス賃を要求されたからだ。大抵パスガールがいて切符を売つてくれるのにどうしたのだろう、きようは突然の缼勤かそれにしても観光地らしからぬといぶかつたが、とにかく腰掛けて隣の京都人風の人に聞いて見たらこれはワンマンカー。
▽乗るときにきちんとバス賃を箱のなかに入れるう。運転手はそれを確認するのだ。動き出すとバスガールのいないのに、美しい声で次の停留所を案内するのが流れて来る。テープレコーダーだろう。合図をしないととまらないことになっていて、次に降りたいときはベルを押さねばならない。教えた通りにしたら成程とまつた。のこのこ降りようとしたら、そこは違うという。乗るときは前だが、降りるときは後ろ、何とまあ世話のやけるバスに乗つてしまつたわいと思つた。
▽川柳大会は大変な賑わいで、主催者側はさぞ満足であつたろう。それと共になかなかのご心労のことであつたとお察しする。
▽宿舎で顔馴染みになつた岡山県津山市の川柳作家の定金冬二、木下水保、安井清和君らと二日朝、苔寺に行くことにした。ハイヤーから見る京都の町も風情があつたし西芳寺枯山水、池泉回遊の庭園がまことにおくゆかしかつたがただ時期的に湿りがないせいか、苔の水々しさが見られなくて残念だつた。こんなとき雨が降つてくれた方がよいのにと思つた。
▽帰りにハイヤーをとらえようとして待つていたら(東映)のマークのついたのがやつて来た。さては東映俳優かと物珍しく降りる人を待つと、おばあちゃんで俳優どころか東京の観光客だつた。運転手に聞くと今日はロケがないので流しているのだといつた。私たち四人は東映俳優のつもりで、桂離宮を横に見ながら悦に入つた。