七月

▽選をしている地方新聞柳壇で
   吾輩は千円である拾うなよ
            武田 渓泉
を採り上げた。
▽間もなくよみうり時事川柳に
   わが輩は千円ほどかと苦沙弥をし
            関根 朝敏
を見つける。
漱石が大学で講義をしていた頃、或る日、片腕を懐手してノートをとっている学生を見つけ、その横着さを怒鳴りつけた。ところが、その学生は片腕がなかった。すっかり照れて漱石の曰く「僕だって無い智恵を出しているんだから、君だってない腕を出してくれたまえ」
   諭吉より重信適と商業部
            佐藤 一夫
 よみうり時事川柳にある。
   漱石と諭吉の差額をだれが決め
            渡辺真理
 これは朝日せんりゅうから。
▽尾崎卆翁血気のころ、著述のことで福沢諭吉を訪ねた。諭吉は毛抜で鼻毛をぬきながらじろりと青年尾崎行雄を眺め「おメエーさんは誰に読ませるつもりで著述なんかしなさるかね」という。何とも癇にさわる態度であるが、腹の根をおさえて「大方の識者に見せるためであります」と答えた。すると諭吉はいった。「それはいかんね。先ず猿を対手につもりで書くんだね。私などはいつも猿に読ませるつもりで書いてるよ。世の中はそれでちょうどいいんだ」
▽選をしている地方新聞柳壇にまた
 諭吉でも太子も別れば同じこと
            上林 豊子
 朝日せんりゅうに
   聖徳太子汚職にあきれ御退任
            原野 辰子
▽五千円のキリスト教徒の新渡戸稲造博士は、子供が月に向かって礼拝しているので「何故お月様なんか拝むのですか」と尋ねると、「お月様は神様だから」という答えに大いに伝道精神を起して諄々と説いた。すると子供は「じゃ小父さん、神様ってナアニ」「眼には見えません」「じゃ何処にいらっしゃるの」「何処にでもいらっしゃいますよ」「そんならお月様にだっていらっしゃる人でしょう」「?!」
▽さすが話題に富むご三人、昭和二十三年の玉石集にそれぞれ仲よく顔を揃えていらっしゃる。