九月

▽九月に入ると、またみんなに会えるんだ、達者かな、そう思う月である。中学校で学んだ同士が年一回行なう同級会を九月と決めたのはこの数年前、きちんと今日まで来ている。
▽会場は浅間温泉。本通りの繁華街から離れた山手の閑静の地を自然と選んだというのは、恩師の娘さんが嫁したという縁もある枇杷の湯。あまり手を施さない家造りで、庭園が古木に寂びておちつきがある。
▽宴に入るまえにいつも老後の健康という寸話を提供して貰うことになっている。北大に長くいてこちらに帰って来られた藤森聞一君が、にこやかに話し掛ける。ことしはどうかなと耳を傾けると、縄とびの実行をすすめる。かなり激しい運動だから、あせらないでゆっくりやり続けること。ランニングもよいが、人目につかず、いつも手軽にできる縄とびを考え、いまでは一五〇回続けて、五分間ほど庭を歩き回ってまた一五〇回を毎日心がけているという。
▽いま長野県総合健康センター所長で健康増進にこれ務めているから説得力があるが、さてやって見て大変と、ほかにないかの声あり、先ず手頃の散歩三十分の答え。
▽酒になる前に、ひとつの研究に没頭している紹介をということで、此頃新聞や雑誌にちょいちょい紹介された小穴喜一君の堰の話を聞いた。農村の用水路研究だが、地元に住んで密接な関係にある堰の調査が空白であることに気付き、埋もれた記録を掘り起こしながら、どのように開発され、それが立地条件とどう結びつくか、どのような人によって工夫されたかの研究で目下追跡に余念がないと淡々と誇るでもなく、急な要請にも拘わらず率直に語ってくれた。
▽もうひとつは島田安太郎君で木曽路研究。既に著書があるが、木曽義仲から民俗断片に至るまで精しい。学問的で少しむずかしかったが、今回は御岳の噴火の起因にまつわる話だった。
▽いい思いつきで好評。ひとつのテーマを研究している和算とか、俳諧食物史とか、美術鑑定とか、既に名のある者もいるから、来年あたりが楽しみだ。古稀をやっと迎えた若者だから。