十一月

▽さすが十一月に入ると落ち葉が日毎追いかけるように、道の辺にかさこそ音を立てて舞いかかる。それを掃いて町内指定の場所に捨てにゆく。霜にへばりついた先客の落ち葉は、人待ち顔で迎えてくれる。うず高く盛り上がり、ときに荒ぶ風でゆらめき、充ち溢れた恰好で、そのあたりにまたちらばるのである。
▽今日の新聞をひろげると、バサっと折り込み広告が手元に落ちてくる。日によって軽かったり、重かったりする。重い筈だ、恒例のえびす講を控えてのちらし。やはり十一月か、そう思う。
▽初えびすというのは一月二十日で、この日、恵比寿さまが旅に稼ぎを思い立つ。そして十一月二十日にお金をたくさん儲けて帰って来るということで、この日を祝うところがある。
▽農家の豊穣の祭り神として祝うのとつながり、いつか農村の収穫を見込んでの商業祭にかかわって松本地方あたりはこの色彩が濃いようだ。
▽十九日に商家では打ち揃って戸を閉めて休み、番頭さん小僧さんたちが大いに太平楽をきめこんだもの。夜になると親戚縁者が招かれ、一緒になって大盤振る舞いに平素の労苦を慰めた。もうそんなな風習も昔語りになっている。
▽本町一丁目所有の深志神社境内のえびす殿で、当番の者たちが集まり、景品つきのおみくじを売るために徹夜してまで精を出したのも、まだまだ古いしきたりを受け継いでいた頃の慣習だったが。
▽でも現在、えびす講の売り出しに景品つきの福引券が出る。金額によって違うが、小さい額でも枚数をふやせば、くじを引く権利がついてくる。うちで大した買い物をしたわけでなかったのに、無駄にしておくのも誠にもったいないと思い、孫の正勝を連れて福引券引換所に出向いて威勢よく引いたら、立てつづけに一等賞三枚が当たった。係員も、大当たりを知らせるガランガランを鳴らしながら驚いたようだ。
▽一等賞二枚該当で指定の中華料理店に勇んで出掛け、丁度来合わせた親類の娘さんを加え、満腹感に時間を稼ぐ。当てた正勝はたったラーメン一個所望で笑わせた。