七月

◆一年も二年も住むわけではないが、仮の住居である筈なのに居ついて見ると、毎日がそれなり気に自分の家であることで親しみが湧く。なぜだろう。そんなことを思う。いま新築している家が完成してから、いよいよ移るとなると愛着を感じるだろうし、たまには訪れることになるのかなと、変な気持ちになってくる。近所のひとにいろいろお世話になりました、あちらへお出ましになったらお寄り下さいと、下手なお世辞をして別れる自分の姿を描いて見るのはどうしたことだろう。
◆まあ言えば、まわりのひとたちがみんないい隣人だということにおちつくからなのだ。前の家は、退職して悠々自適のおじいさんとそれにおばあさん。子供がなかったのだろうか両養子で、元気のよい奥さん、それにまつわるようなご主人。このご主人は私たちが朝顔を洗う頃、自家用車で勤めに出る。六年生と二年生のどちらも女の子、可愛い。うちの孫は来年小学校へ入学だが、女の子同志で齢近いこの二年生とうまが合う。
◆すごく出来のよい犬を飼っている。玄関の横に割りにひろびろとした住まいがあり、一日中ここにおちついている。夜は用心がよく警戒心が強いから万一の場合は吠えてくれるだろう。安心してそう言えるほど全くそんな大事は起らないでいる。
◆私は遅まきながら朝、事務所に出掛けるのをこの犬は毎日見ていてくれる。首を出して、ちょっと両脚をさくのところにかけて、いってらっしゃいといわんばかりだ
◆家の裏つづきに塀がある。塀に面して近所の家の庭がつづく。ここにも愛玩用でなく、利殖用である。子を産ませて頒けてやる律義な勘定を読んでいる。こちらへ来たとき、たくさんの利息の仔たちの鳴き声で閉口した。でもそれぞれ貰われて、ただで貰われたのではないらしいが、夜中の鳴き声は静かになった。もともと私は犬が好きだし、戌の歳だから何か縁があるとひとりつぶやく
◆孫たち二人はそんなことにおかまいなく、前の家の大きい犬とも仲よし、たまには塀の向こうをのぞいたりしても吠えなくなった。ときになだらかな日が過ぎる。