五月

◆住んでいる家を改築するからには、どこかへ移転しなければならないので、あちこち物色することになったが、なかなか思うようにならないで、しばし足踏みをする恰好にもなった。
◆町ぐるみなので、それぞれ住むところを決めてゆくわけだが、案外よそさまは手っ取り早く、何だこんなところにと思われる場所に手際よくおさまっているのであるまごまごしたこちとらがあわれでもあるが、自分に同情しているわけにもゆかず、うまい具合いに新築したばかりの家が見つかった。それ行けとばかりに親戚の人たちが手伝ってくれた。
◆家賃が少し高いなと思ったが、おちつくのは半年ばかりだからと目をつぶって敷金と一緒に払って来た。孫らはどういうことだかはっきりわからぬまま、よそへ行くとなると遊びに見知らぬところが好きだから、はしゃいでガヤガヤワヤワヤ嬉しそうだった。
◆まだこわし残した部屋で私達おじいちゃんおばあちゃんは寝た。見渡すといろいろ無くなっている家財道具や掛軸が、何となく夢にめぐって来て、朝覚めるとわびしかった。息子夫婦と孫らは移転先から朝からやって来て、私たちと落ち合った。幼稚園へ行く孫はいいがどこへも行けない孫の守りが一人必要で、おかあさんだけ移転先に居残ることになる。
◆正面から見ると誠に新しい建具で瀟洒な家。いいのをさがし当てたとみんなで喜んだ。いずれはおじいちゃん、おばあちゃんの私達と伜夫婦、孫二人の家なのであるが、日曜日の晩はいいけれど、あとの六日間の毎晩睡眠不足がたたって、孫らの神経がいらだち始めた。表ばかりの美しさに見とれているうちはよかったが、裏の方は飲み屋がハーモニカまがいにずらりと並び、夜遅くまで呑ン平が酩酊して大いに気勢を挙げるのである。
◆伜は毎晩なので我慢出来ず交番に夜中をかまわず注意をうながすように駈け込んだ。その夜、次の夜は静まりかえっているが、また酔客がわめき散らす。私は幸にも月曜日の晩泊っただけで、それを知らなかった。そしてまた移転せねばならなくなったのである。