十一月

 ちょっと頭が痛い気がして、今日は一日臥すことになるかと思っていたのに、何時となく良くなって来たので安心した面持ち。すぐ齢だなと慮ったり、無理ならぬ体調だと先を読む。
 少し郊外な静かな所に寝起きするようになってそろそろ四年目だなと気づく。無論人家皆無ではなく隣近所はあるにはあるが、滅多に口を切ることは少ない。隣組長に仰せ付けられ回覧板の世話を怠らない。顔馴染みのつもりのようでいて「どちらへお勤めですか」「何のご商売ですか」と問うことも煩わしいので伺ったことないし、先方でも話し掛けたりはしない。隣組で月一回話し合いくらいしてもよいようなものの没交渉である。親が病身でその介護にあたる日常を持つ娘さんがいるが、だからあまり姿は見せない。公共の寄付に伺うと、どの家庭よりも増しに心掛けてくれる。
 よく吠える犬を飼って隣近所に迷惑をかけるお家はない。打ち明け話では朝四時頃犬が小屋から出て、飼い主の家の戸を叩く。うるさいなと始め思ったが、毎晩なので人間様の方が先に起きて鎖を手にとった瞬間、ぐっと強く散歩をさせてくれとの引っ張った願いがこもる。そこで好きな道筋通りを自由にさせてやると、自分の好きな通りを勢いよく動き出した。
 飼い主の話を聞くと決まったように四時を期して遠吠えのはしりが始まる。あまり長くなると近所に迷惑をかからぬように起き上がることにしているという。
 殊勝の至りでよく心がけたと敬服に余りある。それからは滅多に吠えて近所に迷惑をかけなくなった。嬉しい話である。
 我が家の土地に面して向うの地主の箇所に柿の木があるが、先日夫婦お二人で柿を採りに来た。こちらで挨拶したが、知らぬ振りして一所懸命に相呼応して熱心だった姿を思い出す。
 こちらの地所に色んな花が咲き乱れ、花屋から苗を買って来て植えたのも一緒になって楽しんだ。空き地に広く銀杏の葉が季節を知っていて落ちて来て賑やかだ。夕方見知らぬ方の訪問があり「お家の銀杏の葉を拾わせて下さい」と言われ快諾したら嬉しそうだった。