七夕さま

 ご無沙汰の言いわけに「七夕さまのようですね。だって一年に一回しか会う機会がないですもの」とすまながったり、テレたりすることがあります。
 天の川をはさんで、牽牛星織姫星が年にたった一度デートするという。信州では八月のお盆に入る前の七日に行われるところが多いようで、これを七夕祭りといいます。
 笹竹一対に五色の短冊を結びつけて飾る。朝早く起きて芋の葉などにたまった露を持ち帰り、これで墨をすり、「七夕」「星祭り」「天の川」といった文句や俳句、短歌を書きます。
 そうすることで男の子は習字が上手になることを祈り、女の子は手仕事がうまくなることを願うのでした。
  みすずかる信濃路に来て星まつる夕にあひぬ旅のさみしき   勇
 松本平の七夕人形は古い昔からの習俗で、江戸時代の菅江真澄の『真澄遊覧記』にも紹介されています。
 男女二人のもの、男だけのものがあって、軒下につるします。紙びなのほかに、板に顔を描き、横の腕木に着物をきせる。また角材に目や鼻や口を描いて長い足をつけた「かわたり」にも着物をつけます。裾をちょっとはしょります。「かわたり」とは天の川を渡る意味とも、七夕の星を背負って川を渡る人足ともいわれます。
 七夕人形をつるした縁先に、胡瓜、リンゴ、夕顔、赤ほおずき、茄子、モロコシなどを並べ、また饅頭、焼餅や幅の広いほうとうに、小豆あんやきな粉をつけてそなえます。
 そしてこの日には七夕様がささげ畑へ降りてくるから野菜畑へ入らないように――という俗信があったものでした。
   七 夕●
  七月七日に、例年の通り、天の川を越へて、ささげ畠へ牽牛の星下りて見給ふに、まだうす暗きところを、織女をたづね給へば、畠のすみにて何か物音するをすかしみれば、夜這星来りて、織女をとらへ、いろいろ仇つゐてゐる。「おのれ密夫、憎いやつ」といわれて、夜這星、隣の畠へ逃げて行く。いづくまでもと追っかけて行くと、何か足へひつかけ、ころんだゆへ、さぐつてみれば、かぼちやの蔓。   (喜美談語・寛政八年)
 「七夕の日に逢うと悪い子が産まれるから、逢わない方がよい」といういい伝えがあり、この日は少しでも雨の降ることを願ったものであります。
  織女星心不安に待つらんか七日の夕雨はらむ風   鈴夫