月々の句

三月

パラリンピックこころを凌ぐ顔顕われ 物の怪の凶器に囃す世俗絶て 空き缶に鋏鉛筆己も挿し 虎唸る熱砂に飢えの重なるか 風号泣好機不況の二枚舌 死期近しと思いきや虫と石と めらめらと非の打ち所なく仕切り 寝業師の衒うあたりのしたたる血 あさましき世事…

二月

動と静斉しく競う長野五輪 長い言葉でくすぐられほんの芸 畏怖と悔い交差夢の中なる一瞬 ひとつふたつ老残のきびしさを拾う 一日のためにいただく安らぎよ 使い走りの夙に凛々しく安否に構え 思情にすわるばかりの打ちどころ 現実の揶揄で都会の鴉たち 効き…

一月

呆け防止抜からぬ顔でねじつてる しくじりの羽をたたんでなお歩く 現実と夢をからめて爺のとさか 蓄積か瓦礫か不況首かしげ しみじみと与えられたる餌が待つ 雪燦々神の思し召しを重ね 雪しみじみ聞き捨てならぬ話の緒 雪可憐ひとりぼつちを助けよう 雪しき…

十二月

猿芸の巧者に澄ます軽い椅子生活のためにふるえる強さとは真相の裏むくむくと雲たしかめ業背負いふんどし如き余り持つ冷たい手自分ひとりを逃がすまじ高齢を尽くすまにまに左手右手恨みぴかぴか闘いは卸さない不行儀に鎮もり生きて底の底死後がついてくる高…

十一月

貧しい思惑だってよかろう山が見ているぼんぼりの転寝そっと花火に叱られねんごろに声立てて棲む大きいぞ秘事かくし合い鷹揚の足掬い気の強い街で夢の譜が逃げた濡れ鴉干し鳥決め手のかくれんぼカップで眠る昵懇のなかにひそめ果油ちびり夜忘れねぐらこじん…

十月

父よりも母よりも歳重ねつつうつせみにあずけてひとり碑を洗う老い二人山が抱き時も大きく境涯の砦きびしく温かや両面の愛が具わるかの珠玉鮮やかに弔う歌を聴く今ぞ殉難に川の名忘れぬしのび泣き眠らばや効かぬ薬のその奥に愛憎を越えて谷間の風と化し悠々…

九月

丸かじり短篇のウィットが上がる老害のしこりなだめてお静かにいずれめぐる老いたおやかに独り言接点でかゆくてならぬ言葉たち興亡の軌跡黙って呼んでおこう百歳に遠く草臥れゆく吹き矢凡人の好さをにじませ水がうまい耳の上を抱いて鎮まる夜の私話打ってつ…

八月

こおろぎの身の上ばなしいち早く夏負けに心安けく齢洗う老病につなぐゆかりのひとり舞古患えば老いの口添えからまして短にして小の兼ね合いまだ生きる自らを養うほどの力水あやしげに杖を気品として見るかワンテンポ遅れながらも気のおごりこの自分に怖れを…

七月

かわり映え近く控えてまばたかずすれすれの危うさぬるま湯が好きに変にこだわり利口ぶる味か知らいつくしむ足の痛みは自分のもの惜敗の小気味よさ風にも聞こう近い将来という道連れにごく懇意あけすけに窮地の尻っ尾まで濡らす齢がこつそり教えてくれる加え…

六月

忘れっぽく静かな月が黙ってる気の利いた話でそっと座ろうか人を識るひとを得る間のまばたかず会談の用意生き身にひと鞭よこなれてく腹の動きの手厚くて光景のいくつか励むプラス志向誇らしき気運育てる外はない不憫にも小さな行李居据わって散発の試案うな…

五月

よんどころないウエーブよ負けて越えて埋蔵の神秘世俗を洗いつつ延命の慈顔ひたすら慎しやあやふやにめぐる歳とのおつき合いしかめ面図られまいと月には見せるせめて生まれ変わりの彩をちりばめたかがちびりで酒徒たりと本意身の上の曖昧さ拾わせてばかり時…

四月

長生きと長寿並びてまだ早いさよならと言わないまでも押しつくらはみ出して祈るばかりのわが身とは奢る気の試案は潰えすたこらさ今日という今日は叱っておいていい恥じを知れかの難破船もろともに足萎えとわびしがる芽を撫ぜてやるか悶絶にゆだねる虫をこそ…

三月

老いの一喝風にどこかで連れ添って多士済々霖雨だからと酷使する焦げ付きな口上やがて神妙な構え来て欲しくない独りかなこぼれ酒失せものと正しい時刻との落差尾を隠し慇懃無礼傷つかず言葉が向こうからやって来る頬っぺの飴春が顔出して小さな借りがあるら…

二月

あとさきの傷つきを待つ思い入れ間違いの鴉顔して湯を浴びるかみさまのにっこりしてもきらず嫌い殺気立つ夢のなかなるひと芝居みな決めとなる静かな幕のつぶやき買う当てもない癖に後生大事挿絵を抜け出しみみっちい溜め息どこにもある貌を向け臆病風邪むし…

一月

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十二月

申しおくれ立つほどもなく闇が近づく枯れた河やがて自分にこだわってそれとなくいたわりならばかく孵る身だしなみ装う季を覚えさせ老いは祿新調句帳延ばさんや心得しエスプリ鈍く老い得たり省察と緩急からめ老い糾す簡略の奈辺が掴め老いたるぞ流通の渦ただ…

十一月

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十月

伴奏が欲しいか落ち葉向きを替えつらつらおもんみるにこだわった肩小賢しき金の一転よごしかた相殺の語活用高く跋扈する届かないところで虫がよすぎるよ真っ直ぐな道がきよとんとむこうでもまちまちに偉がる癖の終わる頃偽写楽とは気が付かずはにかむか願っ…

九月

うち紅を刷けば虫たちうなずいて軸替えて父の遺品にあやかるかどこで揺れてか一筋の祈りとしさもあらばあれ一陣の風を布くかくれんぼ真に迫るは甘い金箸束に洗うとえにし顔を向く返すのは諌める言葉とんがって明日は明日役者揃いの夢紡ぐ鐘いくつ老いの道草…

八月

身代金換算してる遥か迂濶に一行に遅れてもゆく惜しがって集まりの時間に早い自分抱くほころびに似たる思いのひと雫とてもぎらつく明日とかや殊勝げに闘いの虜に近しまた遠く頭痛からもみ出すうたの楚々と積む微恙捨て難しか友に腰揉まれ見舞いには御守り札…

七月

気弱さの頭脳を洗う世に習い警める言葉拾って一夜ふた夜老い同志小さきは旅いま掴み行き違い交わるまでの時を持し越えるみち痩せの気負いの見るまでに志半ばか深き渕とせん人間の声卓見に結ばせよいぎたなく二重奏してはばからず枯れてゆく具わればみじめさ…

六月

もののためしのかくばかり血のぬくさ平つたく寝くらべがいま始まったさにあらずひとのまことのゆれ合って凡人の安けさ拾う一呼吸いまわしき億のからくりぎっちらこすんなりと暮らしは違う踏ん張って通院の待つ人の靴揃う日も酒離れやむなき砦つくるがごと頭…

五月

傷つけばひとり寝床に甘えてくいく曲がりこらえ性なくただ堕ちるそれとなく遅れをとって回り舞台幌馬車は人を拾いつ星ちりばめ自らを打てば響きの閨深くあげつらうひとりぼっちのまだ覚めずこらしめのこそぐり何か虫がある遠去かる風景仲よしだったのに癒す…

四月

要校正スタンプは濃く仕事始め初校再校励ましの声背を押して見過ごしと手抜かりの字がまた躍り憶測の外なき伏せ字効きすぎる責任校正千慮一失への睨み執拗に舊字削字加点のいかめしく下駄履きの喚起うながす符の温さ神代種亮の名手を胸に今日も闘う校了を冷…

三月

てのひらに載る豆本の意気軒昂大辞典と遊び豆本のいのち豆本の瀟洒の粋を拾い出すエッチング孔版豆本更に孤独艶笑をちりばめ豆本低い腰幽玄の浮遊豆本棹さして麗しき天地豆本離さない気休めの滴り豆本につかまってまぼろしの鍵は豆本合点するてのひらにさっ…

二月

老いに勝つささやかながら見せ場としおそからで私淑のひとを胸に収め出世街道借財だけが睨んでた似顔絵は甘く気がねのないタッチおとめ座のまばたき春を呼びたがる神戸学地震に自立の手を究めたまさかに振る舞い酒の音ひそか安かれと祈り斉しく吹雪する吹雪…

一月

喪いしものを求めて心繋ぐ生きて生きて科学の粹をまのあたり盃のたしなみ軽く夫婦の座永劫の地にしみる雪の精寿命なぜ真夜に拾うひとりごと地震回顧きらめく星座ご苦労さま老友の安否と結び合う祈りさりげなく話すに重さ絡まって残り日が小声でなくて告げた…

十二月

身を尽くすまでひたすらな色を溶くまぎれなくほそほそと知るぼけの証望むらく福の朱拓にあやかるや林檎丸かじり仕事に精一杯持ちにくい金がふところ正直であどけなき遺言弘く強く問う重くにも軽くにも言葉ちらかる実直なお布施に足りて小浄土山ぐにの灯の揃…

十一月

黙らせた向こうの闇の息遣いいぎたなく億にしびれてゆく狂い陸続と言葉の嵐ゆるぎなく遭難の寄り添う雪がきつすぎる不埒とも埒とも聞かずいそしむ眸一片の小舟明るき揺れを持つ受ける者受けざるものの血を湧かし孜々として倦まず諾否も名を負うよけなし合い…

十月

長い道言葉とことば連れ添って有無通じ合ういただきが見えてきた浅からぬ縁みちびく齢の妙連想の今更ながら呼び合ってうらぶれの小唄ひとつも覚えとこ寝たきりの枕に宿る恵みの芽足腰を鍛える知恵ぞどんと来い朴念人出で逢う月に問われかけ葛藤のほころびを…