十月二十八日

   売付ける胆は山家の猿の智恵

           (柳多留 一四六)




 江戸時代のユーモア作家十返舎一九の木曽道中記のなかに、街道で熊の皮や熊の胆をすすめるところが書かれている。
 敷物になつたり、胃の薬に用いられるから売込みにさぞ熱心だつたことだろう。
 熊をとつたとき、多く山で腑分けをせず、そのまま背負つて帰るのがならわし。
 脂肪のところは、やけどやひびにつけるとよく効くそうだ。
 この句、猿の胆を熊の胆といつわつて旅人に売付けるとは心臓が強い。