一月十日


   どこまでも信濃に冬は家がなし



           (万句合宝暦一二、桜三)

     立て廻す高嶺は雪の銀屏風

          中に墨絵の松本の里

 松本を詠み込んだ江戸時代の狂歌堂真顔のうたである。
 小説家菊池寛は文芸講演会でこの狂歌を採り上げたが、あまり賞めなかつた。
 きびしい寒さと白一色におおわれた雪景色の感じは出ているが、狂歌というジヤンルが気に合わなかつたに違いない。
 雪深い信濃のイメージでは、どこまで行つても家が見当らないらしいけれど、それは越後ざかいにいくらかはあるが、全体的にこの句ほどの積雪量はない。昔だつてそうだつたろう。